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逆転の発想(2) 死から生を照射する(スティーブ・ジョブズ)

指導者たる者かくあるべし

 スタンフォード大学卒業生に贈る
 アップル・コンピュータの共同設立者の一人で世界の情報革命をリードし続けたスティーブ・ジョブズは、2005年6月、米国名門、スタンフォード大学の卒業式に招かれ、有名なスピーチを行った。
 
 ジョブズは前年8月に膵臓がんの摘出手術を受けてリハビリ中だった。式場を埋めたエリートの卵たちは数々の栄光の神話に彩られた経営の神様から企業マネジメントの奥義の一端を聞けることを期待して固唾を飲んで見守ったが、見事に裏切られた。彼の口から絞りだされるように語られたのは、意外にも挫折続きの人生の経験と、真摯に生きるためのアドバイスだった。
 
 惰性で生きているなら何かを変えよ
 自分が立ち上げたアップルを一度は追い出され、苦悩のどん底に落ちた経験を語り始めた彼は、アップルを追われるという経験があったからこそ、その後の人生があったという。絶望から一度はシリコンバレーを逃げ出そうと考えながら、それを止めたのは、「自分のやってきたことが好きだ」という一点にあった。
 
 「偉大な仕事をする唯一の道は、あなたたちがすることを好きになることだ。もし、まだそれを見つけていないなら、探し続けるのです」。
 
 そして、「現状に安住するな(Don’t settle.)」と社会に巣立つ若者たちに助言する。
 
 マッキントッシュ、iPod、iPhone、iPad−―次から次へと時代をリードする革新的なIT製品を世に送り出してきたジョブズの経営の核心は、この「現状に安住するな(Don’t settle.)」という人生観にあるように見える。一つのメガヒットがあれば、これでいいかとなりがちだが、彼は常に自らの殻を打ち破り打ち破り、前を見続けてきた。
 
 がんで余命宣告を受けた彼は、最後に死について語り出す。
 
 「もし今日が人生最後の日だったら、私は今やっていることをしたいと思うだろうか?」と彼は自らに問いかける。「答えがNOの日が、何日も続くようなら、私は何かを変える必要がある」。
 
 死から人生を見つめ直すなら、惰性で生きているわけにはいかない。何かを変えよう。それがジョブズの、経営者以前にひとりの人として生きる人生哲学だ。
 
 ハングリーであれ、愚か者であれ
 一度は半年以内の余命を宣告されたがゆえに、生きる意味が鮮明に見えるのか。スピーチの締めくくりのアドバイスを紹介する。
 
 〈あなたたちの時間は限られている。時間を無駄にするな。他人の考えに振り回されて、ドグマ(常識的考え)に陥らないように。他人の意見という雑音に、自分の内なる声がかき消されないようにすることだ。そして、最も大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ。あなたたちの心と直感は既にあなたたちがどうありたいかを、とっくに知っているのだ。(世間がどう見るかなど)それ以外のことは重要ではない〉
 
 そしてラストメッセージ。
 
〈Stay Hungry, Stay Foolish! (常にハングリーであれ、常に愚か者であれ)。私はいつも私自身、そうありたいと願ってきた〉
 
 そして彼はもう一度、繰り返す。
 
 〈Stay Hungry, Stay Foolish!〉
 
 旅立ちの席での意外なはなむけの言葉。スタンフォード大学のホームページが伝えるこの日のスピーチの映像には、あっけにとられる卒業生たちの表情が映し出されている。彼らはその後それぞれのエリート人生のどこかで、天才経営者の逆転の発想を噛み締めているに違いない。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
『スティーブ・ジョブズ名語録』桑原晃弥著 PHP文庫 
Stanford/News  https://news.stanford.edu/2005/06/14/jobs-061505/

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