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マネジメント

マキアヴェッリの知(5) ケチは組織統治のために必要な悪徳

指導者たる者かくあるべし

 ケチと気前よさ

 〈君主(リーダー)たる者、ケチだという評判を恐れてはならない。なぜなら、この悪徳は、自らの金庫を空にすることなく、かといって人民の財産の略奪者にもならず、それでいて統治を継続するために必要な悪徳だからである〉


 マキアヴェッリは、あっけらかんとこう言ってのけるが、一般的にはケチの対極にある気前よさのほうが、部下に従われる美徳とされている。たとえば部下を飲みに連れて行って、払いを割り勘にでもしようものなら、悪評どころか恨みを買うことになるだろう。しかし、マキアヴェッリは、中途半端な気前よさの危険を次のように指摘する。


 適当な範囲での気前よさを発揮するだけでは、人々の気づくところにはならず、「渋いなぁ、これだけか」とかえって悪評を立てられかねない。だから、気前がいいという評判を維持するためには、大盤振る舞いの域にまでエスカレートせざるを得ない。そして大盤振る舞いを続けるために、全ての資産を使い果たすことになる。


 マキアヴェッリの説く君主論の筋書きに戻せば、国庫が乏しくなる。それでも民衆の歓心を買いつづけるためには、民衆に重税を課すしかなくなる。となれば、民衆は君主を憎悪するに至り、浪費によって貧しくなった彼をだれも尊敬せず、救いの手も差しのべない。そんな時に外敵の侵略でも起きれば、その国は滅びてしまう。道理である。


 君主が転落する前に事態に気づき、それまでの行動様式を改めようものなら、たちまち「ケチ」の悪評が生じて、立ち行かなくなる。


 〈それゆえ、君主は害を蒙らずに、しかも人々に明らかな形で気前よさという美徳を示すことはできない〉。マキアヴェッリが導き出した結論だ。

 

 カエサルの場合

 「しかし、カエサルは持ち前の気前よさで古代ローマの支配権を得たし、他にも気前よさを駆使して成功した者はいるではないか」との当然の反論を想定してマキアヴェッリは面白い指摘をしている。カエサルが、借金をしてまで元老院議員たちを接待漬けにし、さらに民衆を味方につけるためにサーカスやパーティを繰り返したことは有名な話だ。


 〈それは、(最高権力を)獲得してしまった者か、獲得途上にある者かの違いだ。獲得してしまった者の気前のよさは害を呼ぶが、獲得途上にある者の場合は、気前がいいと思われることが必要なのである。カエサルの大盤振る舞いは、権力獲得途上のことで、彼とて権力を確定させた後も(暗殺されずに)気前よさを続けていたら、ローマ帝国は崩壊したに違いない〉


 そんな金があるなら、「ケチ」と悪評を立てられようが、国防力充実や必要なインフラ整備に回すのが君主の務めだと、マキアヴェッリは力説している。

 

 ばらまき財政の毒

 さて現在の日本のことを考えてみる。コロナ禍からの脱出口はまだ見えない。そこへロシアのウクライナ侵攻が起きて物価は上がる。ロシア、中国、北朝鮮の侵略的動きに対応するための防衛力強化も課題になっている。


 そんな中で政府は、景気対策、コロナ対応に国債頼みで大盤振る舞いの補正予算を組んでいる。必要な所への予算の投入は避けられないが、コロナ対策での●●支援金というのがやたら多すぎないか。金持ちも貧乏人も全国民一律10万円給付などは、効果があったのか。生活困窮世帯に絞り込む必要があったのではないか。


 審議中の令和4年度第二次補正予算案も、密室調整のわずか3時間で25兆円から29兆円に4兆円膨らむという気前よさだ。それに当てる国債のむやみな発行は将来世代にツケとして回る。収支の帳尻を合わせるために、いずれ増税がやってくるに違いない。


 内閣支持率は下降を続けている。支持率挽回のためのばらまき大盤振る舞いなら、本末転倒である。


 マキアヴェッリの言葉を繰り返したくなる。
 ケチは権力を維持するための悪徳なのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ著 佐々木毅全訳注 講談社学術文庫
『マキアヴェッリ語録』塩野七生著 新潮文庫

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