◆「農業は儲からない」の先入観を壊す挑戦
こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。
「農業って大変そうだし、儲からないでしょ?」
この言葉は、多くの中小企業経営者の頭にも、きっと浮かぶはずです。
しかし、農業を“ビジネス”として捉え直した時、そこには日本の未来を変える可能性があります。その実践者が、大阪・八尾市を拠点に都市型農業を展開する【オオサカポテト】若手農家の渡邊博文社長です。
農業を、ただの「作る仕事」ではなく、「つなぐ仕事」として再定義し、都市の未活用資源を循環させる“地域循環型モデル”を構築しています。
都市で農業を営むこの言葉に、最初は違和感を覚えるかもしれません。けれども今、都市にこそ農業の可能性が眠っている。その気づきから、渡邊さんの挑戦が始まりました。
著者 佐藤とオオサカポテト 渡邊氏
◆大阪・八尾市で始まった、小さな畑からの第一歩
渡邊さんは元々、広告代理店に勤めるビジネスパーソンでした。
転勤を機に「何か新しいことをやりたい」と、大学時代に書いた「人生でやりたい100のことリスト」を見返し、そこに書いてあった「農業をする」に目を留めます。
そしてインスタグラムで「大阪 農業」と検索し、出てきた農家にDMを送りまくるという大胆な行動に出ました。運よく、小さな家庭菜園ほどの畑を借りることができ、そこから全てが始まりました。
最初の収穫物は“白いトウモロコシ”。
あまりの美味しさに衝撃を受け、近所のおばちゃんに配ったところ、「これ、ただじゃもったいない」と200円を手渡されました。これが、初めて“農業でお金を得た瞬間”でした。
◆創業当時は自宅マンションが熟成庫!情熱だけで走った日々
農業の面白さに魅了される一方で、仕事は多忙な広告業界。
日曜しか農作業できない環境でしたが、「1日農業でも十分できる」と、作物と作業工程を工夫して取り組みました。
本格的にビジネスとして農業を展開する中で、初年度にはさつまいもを数トン規模で収穫。しかし、問題はそこからでした。
「芋って寝かさないと甘くならないって知ってました?」
収穫したさつまいもを熟成させるスペースがなかったため、なんと自宅マンションの一室を“芋の熟成庫”にしたのです。
耐荷重や湿度の問題で毎日不安と隣り合わせ。夜中3時まで芋を洗い、早朝に配達。そんな“土と汗の物語”が、彼の原点です。
初年度はわずかな自己資金を元手に、小さな畑からのスタート。
設備も販路も限られた中で、夜は自宅で芋を洗い、朝は出荷という生活を続けました。

2年目には作付面積が前年比で約200%に拡大し、収穫量と売上も2.5倍以上に増加。仲間も増え、活動の幅も広がっていきました。そして現在3年目。さらなる体制強化とブランド構築を進めながら、初年度の約10倍規模の売上を目標にしています。2025年2月に法人化にともない新たに体制を整え挑戦を続けています。

◆農業×就労支援×地域資源=地域循環型モデル
現在、オオサカポテトは40反(約1.2万坪)の農地で、さつまいもを中心に様々な野菜を栽培。特徴的なのは、その運営形態です。
● 生産チーム
● 流通チーム
● 営業チーム
この3つの機能を持つ8名のメンバーで構成され、全員が業務委託制という柔軟な形態で関わっています。
「週2日だけ関わりたい」「繁忙期だけガッツリ」など、ライフスタイルに合わせた関わり方が選べます。各人が「どこまで賭けられるか」を自分で決める。「人生のどこまで賭けられるかは人によって違う」という考え方から、役割や報酬を相談しながら調整しています。
また、注目すべきは、就労支援施設との連携です。
週に1回、就労継続支援B型の方々が畑作業や袋詰めなどを担い、社会との接点を築いています。農業を、単なる“作業”から“働く喜び”に変えているのです。
この取り組みは、「農業は人を活かす場である」という強い信念に基づいています。
◆都市型農業の可能性「半農半X」という新しい働き方
渡邊博文さんが体現しているのは、都市の中で農業と自分らしい仕事を両立させる「半農半X(エックス)」というライフスタイルです。これは、農業を生活の基盤としながら、自分の天職(=X)を同時に追求するという考え方で、1999年に提唱されました。農業を通じて自然と社会との関係を見つめ直し、人生に豊かさと意味をもたらす生き方として注目されています。
日々の生産活動は専属スタッフと共に行いつつ、地域の住民や学生、週末だけ参加する副業ワーカー、さらには就労支援の一環として関わる方々も農園づくりに加わっています。それぞれが“自分のX”を持ち寄り、農業という共通の場でつながることで、多様な働き方と地域循環の可能性が広がっています。

このような「半農半X」の実践は、地域社会における新しい共創の形であり、企業にとっても、社員やOBが地域と関わる仕組みづくりのヒントになります。柔軟で持続可能な社会の基盤として、今、都市型農業の可能性が再評価されているのです。
◆地域とつながる“都市型農園直売所モデル”地元経済を支える小さな流通拠点
オオサカポテトの事業のもう一つの柱が、地元密着型の都市型農園直売所の運営です。
この直売所には、地域のお年寄りから若いファミリーまで、週末を中心に多くの人が訪れます。対象エリアには約300世帯が暮らしており、近隣住民にとってこの直売所は、新鮮な農産物を手に入れる貴重な場所として親しまれています。
目当ては、「今朝採れたばかりの野菜」や「子どもが安心して食べられる食材」など。
八尾という都市部にありながら、“生産者の顔が見える直売所”は、暮らしに安心感と彩りをもたらします。
スーパーよりも鮮度が高く、価格も手頃。
「この前の芋、甘かったよ」といった会話が交わされることで、
お客さんは野菜だけでなく、“人との関係”を買いに来ているような感覚を覚えます。
◆加工品ブランド「マルポシリーズ」で“売れる仕組み”を通年化
さつまいもの旬は秋。
けれど、農業法人にとって年間を通じて売上を確保することは死活問題です。
そこで渡邊博文さんが生み出したのが、加工品による通年販売モデル「マルポシリーズ」です。

▶︎「マルポシリーズ」って?
「マルポ」は、「オ(O)」オサカ「ポ」テトのOとポから名づけられたオリジナルブランド。
以下のような加工品がラインアップされています。
● マルポ濃厚いもバター:蒸したさつまいもと発酵バターを丁寧に練り上げたなめらかなスプレッド。パンにもお菓子作りにも大人気。
● マルポさつまいもポップコーン:芋をパウダー状にし、ほんのり甘い味付けで仕上げた軽やかな食感のおやつ。
● 大阪産芋焼酎「阿保」:規格外の芋を活かして製造。地元の酒造会社との連携で誕生した“地域ブランド酒”。
● 熟成さつまいも「夢シルク」:マルポシリーズの中でも特別な存在、それが熟成さつまいも「夢シルク」です。
● 上品な甘さとなめらかな舌ざわりが特長の品種「シルクスイート」を、丁寧に熟成させ、まるでスイーツのような深みのある味わいがあります。
● こうした加工品によって、収穫シーズン外でも売れる商品を確保できるようになりました。
▶︎ 大手との“つながり営業”で販路を開拓
マルポシリーズは、ただ作るだけでなく、「どう売るか」まで設計された仕組みです。
渡邊さんはなんと、大手スーパーの購買担当者に自ら電話をかけ、「こういう想いで農業をやっています」と熱意を伝えたのです。
その結果、卸会社を紹介してもらい、小売店舗への常時出荷ルートを獲得。
中間流通に頼らず、「地域とつながる農家」として信頼を得ていきました。
また、阪急百貨店のカタログ通販にも夢シルクジェラートの詰め合わせが掲載され、都市部の消費者に対しても、“大阪発の農業ブランド”としての知名度が少しずつ高まっています。

▶︎ 道の駅や直売所でも“売れる仕掛け”を構築
渡邊さんは、商品をただ置くだけでは終わらせません。
道の駅や直売所には自ら営業に足を運び、棚を確保するだけでなく、販売スタッフまで派遣。
販売員が「どんな畑で、どんな想いで作られたか」をお客様に語れるよう教育することで、商品の背景=ストーリーが伝わる売場を作っていく計画をたてています。
さらにSNSも活用。「農家の生の声」や「畑でのリアルな日常」をInstagramなどで発信し、「応援したくなるブランド」としてファンを獲得しています。
▶︎ “農業×ブランド戦略”で生み出す、通年収益モデル
このようにオオサカポテトの「マルポシリーズ」は、
● 商品力(素材の良さ・安心感)
● 物語(作り手の顔・地域とのつながり)
● 仕組み(販路開拓・販売員の派遣・SNS活用)
を組み合わせた立体的なブランド展開を実現しています。
しかも、これらはすべて、ランチェスター戦略で言う「局地戦」「接近戦」です。
大手に勝てない分野では戦わず、地域密着・手作り・顔の見える関係を最大限に活かし、限られた資源で、着実に“売れる仕組み”を築き上げているのです。
◆未活用資源を活かすという使命
渡邊さんの事業には、明確なミッションがあります。
「地域の未活用資源を循環させ、新しい価値に変える」
未活用資源とは、
● 使われていない農地(=休耕地)
● まだ可能性を発揮できていない人材(=福祉・高齢者・会社員)
● 情報発信できていない地域資源(=物語や風土)
これらを活かすために、「農業」というフィールドを選び、人・モノ・コトの流れを自ら設計してきました。
例えば、年間18万本の苗を手植えしながらも、収穫・流通・販売までのプロセスを分業化。加工品やEC展開にも力を入れ、リスクの分散と資金繰りの改善に取り組んでいます。
◆彼の志大阪から、日本の農業を変えるモデルへ
今、渡邊さんが目指しているのは、「大阪モデル」の確立です。
「大阪をさつまいもの産地にする」
これは単なる農業プロジェクトではなく、
● 都市型農業の確立
● 農業の関係人口の増加
● 未活用人材の活躍の場づくり
● 教育・福祉・経済の連携
…といった社会課題への解決策を内包した“地域共創のプロトタイプ”なのです。
将来的には「東京ポテト」「福岡ポテト」といった全国展開も視野に入れています。
渡邊さんの言葉が印象的でした。
「やりたいことを“お金がないからできない”という社会にしたくない。自分の時間を自分で選べるようにしたい。」
その言葉には、若きリーダーとしての経営哲学と、人間への愛情が滲んでいました。

◆ビジネスの未来は、「循環の思想」にある
農業の話ではありません。これは、中小企業経営そのものの本質でもあります。
● 使われていない資源に目を向ける
● 人を活かし、地域を活かす
● ストーリーを届ける
● 共感の輪で経済をつくる
そんな「循環型の思考」は、業種を問わず、これからの経営に求められる視点です。
オオサカポテトの渡邊博文さんの挑戦は、単なる農業ベンチャーではありません。
それは、人と地域と未来をつなぐ、新しい経営のかたちです。









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