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第4回 湯原温泉(岡山県)湯の鮮度が違う「足元湧出泉」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

 ■温泉は湧き出した瞬間から劣化が始まる
 温泉はビールと同じである。もちろん、味の話ではない。ビールは最初のひと口が最高においしい。時間が経つごとにぬるくなり、炭酸がぬけていき、味が落ちていく。ビールをおいしくいただくには鮮度が命であるように、温泉も鮮度が重要だ。

 地中から湧き出した湯は、酸素に触れた瞬間から酸化し、劣化が進んでいく。白色や茶色などの濁り湯は温泉情緒をかき立てるが、実は、そのほとんどが湧出した瞬間は透明である。酸素に触れることによって温泉に含まれる成分が化学反応を起こし、湯に色がつく。したがって、濁り湯は湧き出してから時間が経っている証拠でもある(ただし、濁り湯は温泉成分が濃い証拠でもあるので、濁り湯に価値がない、ということではない)。

 鮮度の高い湯は、入浴したときの気持ちよさがまったく違う。感覚的なものなので、実際に入り比べてもらうのがいちばんだが、鮮度の高い湯の魅力を知ってしまうと、鮮度の低い湯に入ったときに物足りなさを感じるほどだ。

 鮮度の面で究極の温泉は、「足元湧出泉」である。湯船の底から直接、湯が湧き出している状態。つまり、ぷくぷくと湧く源泉の上に湯船を設えた温泉である。空気に触れることなく、直接湯船に注がれるから、鮮度は抜群だ。ただし、足元湧出泉の湯船をつくるにはさまざまな条件を満たす必要があるため(たとえば、40℃前後の適温で湧き出していなければ入浴できない)その数は限られる。私が知る限り、全国に100カ所くらいしかない。

 ■貴重な混浴露天風呂「砂湯」
 貴重な足元湧出泉のひとつが、岡山県内で随一の規模を誇る湯原温泉にある。名物露天風呂「砂湯」は、20軒ほどの宿が立ち並ぶ温泉街の最奥に位置する混浴の共同浴場。湯原ダムが背後にそびえる川原に、3つの岩風呂が並んでいる。いっぺんに50人以上が浸かれそうなサイズだ。

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 砂湯の魅力は、そのロケーションにある。柵や壁など目隠しになるものは何もない。女性には少々抵抗があるかもしれないが、その代わり開放感は抜群である。湯船に浸かって天を仰ぎ見ると、空の広さにハッとさせられる。

 そのダイナミックなロケーションゆえに、2018年7月に発生し、岡山県に大きな被害をもたらした西日本豪雨によって、砂湯は一時水没してしまったという。ちなみに、湯原温泉街は道路への落石、崩土などの被害があったが、現在、砂湯をはじめほとんどが復旧している。

 そして、砂湯のもうひとつの魅力は、足元湧出泉であること。湯底の小石の間から、ぷくぷくと透明な湯が直接湧き出している。ほのかに温泉の香りもする。湯船が大きいので、湯の動きはあまり感じられないが、湯船からあふれ出す湯の量はかなり多いので、湧出量は相当なものだと想像できる。足元湧出泉自体が貴重な存在であるが、これほど大きな湯船をもつ足元湧出泉は全国でもまれだろう。
 
 ■「砂湯」は温泉の原風景
 泉温は42℃前後。熱すぎず、ぬるすぎず、長湯をするのにもってこいの適温。アルカリ性単純温泉の湯はクセのない泉質なので体への負担も少ない。

 あたりを見渡せば、年配の男女だけでなく、若い男女も一緒に入浴している。湯船の近くには簡易脱衣所があり、バスタオル巻きもOKなので、意外と女性の入浴客も多い。「ここまで来て入らないのはもったいない」と思わせる魅力が砂湯にはあるのだろう。

 現在の法律のもとでは、混浴を新設するのは現実的に不可能である。だから、時代とともに混浴風呂の多くが男女別浴場につくり替えられ消えていく中、砂湯は古墳時代から続くと伝えられる温泉街の原風景を今も残している。いまではめずらしい存在になったが、砂湯では大昔から老若男女が平和な時間を過ごしていたのだろう。そんな温泉の原風景を体感できるのも砂湯の魅力である。

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