節税というと経費ばかりが注目されがちですが、棚卸資産の評価も節税を考えるうえでとても重要な意味を持ちます。
在庫が増えれば利益も増えると言われることもありますが、そのことからスタートします。
中小企業の場合、税金というと法人税、法人住民税、法人事業税、消費税といったものが金額的に大半を占めます。
そのなかでも法人税、法人住民税、法人事業税はその会社の利益によって金額が確定します。
それでは、税額はどうやって計算するかと言うと、売上からいろいろな経費を差し引て、残った利益に対して課税されます。
青色申告の場合、欠損金の繰越控除で、今期黒字でもそれ以前の期の損金を今期に算入して、税負担を最小にすることもできるわけですが、損金の繰越控除がない会社は今期の利益にたいして税金がかかってきます。
売上から売上原価を引いた利益を売上総利益(粗利)と言います。たとえば、500円の商品を仕入れて、2,000円で売れば売上総利益は1,500円、売上原価は500円となります。
製造業の場合だと、仕入れてきた原材料から製造過程を経て製品を作り上げるのでもう少し複雑になりますが、製品を作るためにかかった費用が製造原価というものになり、製造にかかわる材料費・労務費・経費などが含まれます。
ただし、製造原価に含まれる原材料はあくまでも製造に使われた原材料だけです。
したがって仕入れてきても使われなかった原材料は在庫として棚卸資産となってしまいます。
それらは、原価ではないので経費にならず、その分利益が増加ぎみとなるということなのです。
ところで、製造業の棚卸資産を分類すると、製品・半製品・仕掛品・原材料といったものがあり、製造過程で製品なら評価額が一番高く、原材料のままなら一番評価額が低いことになります。
つまり、製品という完成形に近くなればなるほど付加価値がつき、棚卸の金額が増えるのです。
これを図にすると下記のようになります。
この図でおわかりのように、製品は製造過程で付加価値をつけていくごとに評価額が高くなります。
つまり、製品という完成形に近づけば近づくほど、棚卸資産評価額が増加して税負担の増加になるのです。
また、製品の利益率が低い製品の場合は製造過程での手間ひまがかからない分、最初から製品単価に近い評価額となり、棚卸資産に計上されると利益率の高い製品より税負担が増加します。
これらのことを考えながら製造をすると、合法的な節税、税負担の抑制につながっていきます。
一般的に棚卸での節税と言うと、書籍では「最終仕入れ単価を引下げて節税する」とか、はては、「棚卸資産の評価方法の変更」などといったことが書かれていることが多いですが、最終仕入れのときだけ、通常の三分の一とかの単価で仕入れていれば、いくら合法とはいえ税務調査の時に目をつけられることとなります。
また、棚卸資産の評価方法の変更にいたっては法人税法基本通達5-2-13(注1)で変更するための厳しい条件が明記されています。
そういったことを考慮しながら節税を考えないと、思わぬリスクを背負いこむこともあるのです。
注1:法人税法基本通達5-2-13
(評価方法の変更申請があった場合の「相当期間」)
5-2-13 一旦採用した棚卸資産の評価の方法は特別の事情がない限り継続して適用すべきものであるから、法人が現によっている評価の方法を変更するために令第30条第2項《棚卸資産の評価の方法の変更手続》の規定に基づいてその変更承認申請書を提出した場合において、その現によっている評価の方法を採用してから3年を経過していないときは、その変更が合併や分割に伴うものである等その変更することについて特別な理由があるときを除き、同条第3項の相当期間を経過していないときに該当するものとする。(昭55年直法2-8「十七」により追加、平14年課法2-1「十四」、平19年課法2-17「十一」、平20年課法2-5「十一」、平23年課法2-17「十一」により改正)
(注) その変更承認申請書の提出がその現によっている評価の方法を採用してから3年を経過した後になされた場合であっても、その変更することについて合理的な理由がないと認められるときは、その変更を承認しないことができる。
参照:国税庁ホームページ