指示型から承認型へ
《対応速度を上げる》ためには、改善プロセスを指示型から、承認型にシフトすることです。指示型の改善とは、意思決定者から現場に対して改善を指示する、上から下へのプロセスであり、承認型の改善とは、現場から意思決定者に対して改善を提案する、下から上へのプロセスです。
ただ、承認型にシフトするときの注意点が2つあります。1つは、しっかりと《リソースの余裕を作って》おくことです。いきなり承認型にシフトすると、現場の負担が増えてしまい、逆効果になります。もう1つは、改善の《道具を与える》コトです。簡単な改善スキルと、ちょっとした仕組みを作るだけで良いのです。そうすれば、改善提案が上がってきます。
このような企業がありました。その企業では、社長が問題を見つけ出し、改善策を探し現場に指示を出していました。各現場で次々と問題が発生するようになると、社長の負担が増えてしまい、すべての問題に改善指示が出せない状況に陥ってしまいました。
そこで、スキルがなくても、現場でちょっとした時間でできる改善の道具を使ってもらいました。始めるときに使い方を学ぶ時間が必要ですが、運営の段階になってくると、年間500以上の改善提案が出てくるようになりました。現場で判断できる提案は現場で決定し、小さな改善が一気に進むようになりました。
社長にとって、毎年500件もの改善指示を出すことは難しいです。承認型にシフトすれば、各層で承認できるため、社長は100件ほどの提案を承認するだけで業績が改善されていきました。
改善文化を作る
利益を最大化するということは、企業が健康体であることです。筋力も体力もあり、柔軟性も新陳代謝も良いということです。そして、身体のあちこちで発生する不具合は、素早く対応できるようになっていることです。
企業における改善とは、身体で言えば免疫システムのようなものです。問題がまだ小さなうちに見つけ出し、症状がでる前に対処するシステムです。免疫システムが不十分な身体は、たとえ筋力があったとしても、すぐに病気になって医者の世話にならなければならなくなります。
だから、改善という免疫システムを、企業内部に持っておくべきなのです。現場力を高め、対応速度を上げることを、企業は目指すべきだと思います。そういった改善文化が、企業風土の一部となり、全ての職場、従業員に浸透していれば、大きな病にかかることはないのです。
改善は、より良くするための活動です。ある日突然、大きく改善するのではありません。日々の活動の中で、少しずつより良くすることなのです。そのほうが確実で、負担もないのです。特効薬が必要なときもありますが、病気にならない体質に変えていくことを目指していただきたいと思います。
ここまで、《利益を最大化する》ためにやるべき行動をお伝えしました。次回第4話と最終回第5話では、より効果的に、業務改善、経営改革、イノベーションを起こす、攻めのテクニックに迫りたいと思います。
■横田尚哉(よこた ひさや)氏/ファンクショナル・アプローチ研究所 代表取締役社長
GE(ゼネラル・エレクトリック)の改善手法をアレンジして10年間で総額1兆円分の公共事業の改善に乗り出し、コスト縮減総額2000億円を実現させた実績を持つ業界屈指のコンサルタント。「誰のため、何のため」をもとに、ダイナミックな問題解決手法を駆使し短期間で数億円から数十億円の工事費を浮かせる実績が評判を呼ぶ。氏の改善手法は業種や規模を問わず、コスト削減はもちろん、品質向上や業務効率化、新事業開発、企業変革にも応用でき、コンサルティングサービスは半年待ち。
著書に『ワンランク上の問題解決の技術《実践編》視点を変える「ファンクショナル・アプローチ」のすすめ』(ディスカバー)、『問題解決のためのファンクショナル・アプローチ入門』(ディスカバー)、『ビジネススキル・イノベーション』(プレジデント)、 『第三世代の経営力』 (致知出版社)、『問題解決で面白いほど仕事がはかどる本』 (あさ出版)等多数。音声講話「儲かる会社をつくる技法」(日本経営合理化協会)、「業務の見える化」(日本経営合理化協会)も出講。
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