■あなたの会社には中長期ビジョンはありますか?
もしあるとしたら、それはどんな内容でしょうか?
これまでビジョンといえば、経営者がやりたいと思うことがビジョンでした。それは今も昔も変わりません。
ただ経営者のやりたいことの質が、近年ずいぶん変わってきたように感じます。
ほんの数年前までは、経営者が「自社の強みは〇〇である。その強みを活かして〇〇の事業に取り組む、強化する」というビジョンがほとんどでした。
つまり、発想の源は「自社の強み」であり、その強みを活かして差別化できる事業を強化・拡大し、利益を得るのが企業のビジョンでした。
■社会貢献からビジョンを考える
ところが近年は、最初に「社会貢献」を考えます。世の中の社会問題や環境問題を見つけた経営者は、それを自分ごとと捉えます。そして、その解決のために自社の強み(リソース)をどう活かすことができるかを考えます。
すると、自社で取り組むべき課題が見つかります。その課題解決がビジョンとなるのです。
従来、社会問題や環境問題は行政が取り組むものでした。が、社会問題や環境問題には、経済問題に端を発するものが少なくありません。
そこで、経済の担い手である企業に、社会問題や環境問題を解決するために取り組むことが求められました。それがSDGsです。
SDGsは地球を守るために国連が2030年までに実現しようと定めた17のゴールです。
この17のゴールのうち、経営者は「これだったら自社に解決できそうだ」というテーマを選びます。次にその解決のために、自社のリソースを使って何ができるのかを考えます。そしてその実現に挑むのです。
あるいは、自らそれを考えなくても、お客様がSDGsのゴール達成を目標に掲げているケースがあります。その姿勢に共感した経営者が、自社の強みを活かすことでお客様のゴール達成に協力できないかを考えるのです。SDGsの登場は、自分のビジョンを描くのが苦手だった経営者にとって自社の進むべき方向を示してくれる大きな道標となりました。
例えば、地域の洋菓子店等に菓子の原材料を卸している地域密着の問屋業の3代目の社長は、子供と出かけた動物園で手にした動物を絶滅から守ることの大切さを描いた絵本から、SDGsに興味を持ちます。そして、SDGsについて熱心に勉強しているうちにSDGs12番の「つくる責任つかう責任」というゴール達成に貢献できないか考えるようになりました。
そこで目に留まったのが、地元の名産のレモンでした。味が評判のレモンですが、サイズが規格外だと、市場価値がないと判断され処分されていました。それをなんとか果汁や菓子原料にできないかと考えたのです。そして、農場や農協と交渉し、多くの規格外品を集めることができました。
次に、地元の社会福祉法人に果汁を絞ってもらいました。そして残ったレモンの皮を加工してくれる業者に依頼し、レモンミンスという焼き菓子の原材料を開発しました。
このときの発想は「自社が儲けたい」ではなく、「より良い社会を作るため、SDGsを実現したい」です。その理念が共感を呼び、協力者が得られるのです。
そして出来上がった果汁やレモンミンスを地元の菓子店に案内すると、地産地消の取り組みとして大いに歓迎され、様々なスイーツが開発されました。
同社の理念は「つながり創造企業」です。SDGsのゴール達成に向けて、様々な業者をつないで、価値観が同じみんなでゴール実現を目指す。そのことに真摯に取り組んでいます。
https://smbiz.asahi.com/article/14565266
■社会貢献活動を通して共感を得る
こうした社会貢献的な活動は、多くの共感を呼びます。そして、マスコミに取り上げられます。マスコミに取り上げられると、同じ社会課題に取り組んでいる人から「一緒にやりましょう」とオファーを頂きます。
同じ価値観の人と仕事をするのですから、仕事は格段に愉快になります。
かつてソニーの井深さんは創業に当たって、「自由闊達にして愉快なる理想の実現」を掲げましたが、理想に燃えて同じ志の仲間が集まるのです。
ただ稼ぐために働いていた時に比べればその働きがいは雲泥の差です。この愉快さが、「社会貢献ファースト」のビジョンを描く最大のメリットです。
私がビジョンづくりをするときの指導でも、常に「あなたは、父祖から引き継いだ会社という公器を使ってSDGs何番の達成できますか?」を考えていただいています。それが、次代を担う経営者として欠かせない「ブレない軸」を手に入れるヒントになるからです。
ぜひ、この問いの答えを、考えてみましょう。そして、その実現を目指して、仕事をもっと愉快に、愉しいものに変えていきましょう。