飴氏は、高校卒業後、東芝を経て22歳の時に独立、25歳の時にコーセル前身の販売会社を創業し、商社からメーカー商社へ、さらにメーカー専業へと事業転換をはかり、その間2度の倒産の危機を経験するも1988年から今日までの25年間、平均経常利益率20%を超える高収益企業を築かれた経営者です。今回、飴氏が提唱するロバスト経営についてお話を伺いました。
■飴久晴(あめ ひさはる)氏
コーセル(東証プライム)創業者
ロバスト経営研究所所長
裸一貫25歳で起業、一代で驚異の高収益会社を築く。2度の倒産危機を切り抜け、人づくり、モノづくりを徹底しながら、外部環境の激変に即応できる「ロバスト経営」を推進、コーセル(COSEL)を、情報通信機器や医療用機器等のスイッチング電源のトップ企業に育てる。
1942年富山県生まれ。高校卒業後、東京芝浦電気を経てエルコー(現コーセル)設立。2000年東証一部上場。自らの経営哲学に基づき60歳で代表権のない会長に就任。2012年に69歳で相談役に就任、71歳でコーセルの経営から離れた。2012年よりロバスト経営研究所を設立、コンサルティングなどを手掛けている。
Q:ロバスト経営という言葉は聞き慣れませんが、飴さんがロバスト経営を推進された理由は何でしょうか?
ロバスト(robust)という言葉は、開発や設計などで使われる技術用語です。おそらく経営でこの言葉を使ったのは私が初めてではないでしょうか。
そもそもの意味としては、「頑強な」とか「たくましい」ということですが、私は会社を経営するうえで、外部環境の変化に強靱にしなやかに対応することが非常に大事なことだと考えています。 したがって、そういう内的仕組みをつくる経営のやり方を総称して「ロバスト経営」と言っているわけです。
経営者にとって景気の変動や為替の動き、あるいはライバルが似たような新商品を出してきたなど、環境の変化は常に起きています。そういう変化にうまく即応していくことが、常に利益を出す会社をつくるうえで大事なことなのです。
Q:ところで今、日本のメーカーは韓国、台湾などのメーカーと戦って苦戦を強いられています。飴さんはどうご覧になっていますか?
まずは、時代がアナログからデジタルへ移行する中で、日本製品の技術的優位性が低下していることがあげられます。これからは誰にも真似のできない固有技術を確立して、「組み合わせ技術」でなく「すりあわせ技術」を武器にしていくべきでしょう。
それとこれは教育の問題でもありますが、現在の日本人は、モノに溢れた豊かな社会となったことで、チャレンジ精神を失っています。現状を肯定する気持ちが強くて、大きな目標に挑む気概が希薄になっています。これでは激しい競争に勝つことができません。
経営者でいえば、マーケットの変化に対して、経営判断が慎重になりすぎて、チャンスを逃していると思います。判断が遅いということすら気づいていない経営者が多いのではないでしょうか。
次に、日本の企業は海外の企業と比べて利益率が低いことが、海外の企業に負ける要因の一つです。真っ当な事業であるかぎり、大いに儲けることは悪いことではありません。それは経営者にとって善です。反対に、赤字は経営者にとって罪悪です。日本の中小企業の約77%が赤字だというのは、国にとっても大きな問題です。
この77%という数字は、2:8のパレート法則にあてはまります。要するに、2割の経営者はものすごく勉強していて、社員を大事にし、利益を出すことに努力しているということです。一方、8割の経営者は努力をしていない。それでは国内でも生き残れないし、ましてや海外で勝てるわけがありません。
よく儲かっていない会社の経営者は「社員にヤル気がなくて、儲からない」と愚痴をこぼしますが、勘違いも甚だしい。
話は逆で、会社が儲かっていないから、社員はヤル気を出さないのです。
そもそも、社員の成長というのは、会社の成長を通して実現するものです。
だからこそ、経営者は努力して儲かる会社にしなければならないのです。
Q:飴さんがこれからの経営で大事なポイントを3つあげるとしたら、どういうことでしょうか?
まず1つめは、経営者が数年後には絶対にこうなりたいという「ありたい姿」を強くもって、それを繰り返し繰り返し社員に説くことです。
そしてその「ありたい姿」を時間軸に落とし、事業計画と実績の差異分析を徹底して、P(プラン)・D(ドゥ)・C(チェック)・A(アクション)を繰り返す。これが2つめのポイントです。
そういう意味では、日本の会社の8割が事業計画をもっていないと言われますが、赤字会社のほとんどが計画をもっていないということでしょう。
3つめは、どんな会社でも問題があります。今、利益の出ている会社でも必ず問題はあります。問題のない会社なんてありません。その問題を見える化し、全社で共有して、その問題を一つ一つ、つぶしていくのです。
それは「何を捨てるかを決める」ことでもあります。たとえば、儲かっていない商品を捨てる、儲からない受注を捨てる。ドラッカーいわく「まずいらないものを捨てる。捨てることで生まれた余力で新しいことをする」ということです。いずれにせよ、儲かる会社が1社でも増えることが私の願いです。 そして4月に『ロバスト経営』を出版したのも、少しでも経営者のお役に立てればと思ったからに他なりません。
(聞き手/岡田万里)
「愛読者通信」(2013年7月発行)掲載