行借り入れの返済を遅延するリスクと、税金を滞納するリスクとでは、経験的には税金を滞納するほうのがきわめて高いリスクがあると思われます。なぜなら、債務者の調査能力という点で銀行と、税務署・市町村徴税部門では大きな差があるからです。
むろん、税金を滞納しないのが一番良いわけですが、人生も会社経営も思うようになるわけもなく、さまざまな理由で追い込まれていく経営者も多いのが現実です。そこで、今回は税務署に比べて比較的追及が厳しくないだろうと思われている市町村徴税部門がどのように税金滞納者の現状を調べていくのかについて書いてみます。
下記に「市町村の税務部門は納付滞納者の現状をどう調べるのか?」という図を書いてみました。
彼らが調査のさいに根拠とする法律は地方税法20条の11(注1)、地方税法354条の2(固定資産税の場合(注2))です。これらからわかるように市町村も税務署と同等の調査能力をもっているのです。
仮に、滞納者が給与をもらっていれば給与支払報告書が市町村に提出され、住所・年収がわかってしまいます。会社が給与支払報告書を未提出の場合、その会社に対する聞き取り調査ができるので、かんたんにばれてしまいます。給与支払報告書を提出しなくてよい条件というのもありますが、支払金額が30万円以下の退職者(注3)という前提をクリアしなければならず非現実的です。
年金をもらっている人の場合、やはり支払報告書から調べることが可能です。
また、地方税法の規定により、税務署に確定申告書や法人税確定申告書の閲覧要請ができるため、そこに記載された内容から滞納者とのカネの流れが推測されてしまいます。さらに言えばこれらの書類から、本人だけでなく、扶養者・身内の現状で調べることもでき、本気で調べられればおおかたのことはわかってしまうのです。
さらに言えば、銀行では常に税務署・市町村、年金事務所などからの預貯金の調査が書面、訪問にておこなわれていて、どこの銀行の支店に給与と思われるもの、売上と思われるものが何日に振り込まれていて、その日で差押えすれば滞納は解消するだろうなどということが徴税部門内で協議されているのです。
これら滞納者の現状、収入の動き、財産が調べられるほど、滞納者は心理的に追い詰められていきます。いずれ、それらが差押えされて生きていけなくなる、会社であれば破綻させられると推測できるからです。
もしも、税金を滞納した場合、国税であれ地方税であれリスクは大きく、早急に真摯に対応しないと、被害は甚大なものになると理解しておいたほうがよいのです。
注1:地方税法20条の11
(官公署等への協力要請)
徴税吏員は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、地方税に関する調査について必要があるときは、官公署又は政府関係機関に、当該調査に関し参考となるべき簿書及び資料の閲覧又は提供その他の協力を求めることができる。
注2:地方税法354条の2
(所得税又は法人税に関する書類の閲覧等)
市町村長が固定資産税の賦課徴収について、政府に対し、固定資産税の納税義務者で所得税若しくは法人税の納税義務があるものが政府に提出した申告書若しくは修正申告書又は政府が当該納税義務者の所得税若しくは法人税に係る課税標準若しくは税額についてした更正若しくは決定に関する書類を閲覧し、又は記録することを請求した場合には、政府は、関係書類を市町村長又はその指定する職員に閲覧させ、又は記録させるものとする。
注3:地方税法317条の6-3
(給与支払報告書等の提出義務)
前二項に定めるもののほか、給与の支払をする者で給与の支払をする際所得税法第百八十三条の規定により 所得税を徴収する義務のあるものは、当該給与の支払を受けている者のうち給与の支払を受けなくなつたものがある場合には、
その給与の支払を受けなくなつた日の属する年の翌年の一月三十一日までに、総務省令で定めるところにより、
当該給与の支払を受けなくなつた者についてその者に係る給与の支払を受けなくなつた日の属する年の給与所得の金額
その他必要な事項を当該給与の支払を受けなくなつた者のその給与の支払を受けなくなつた日現在における住所所在の市町村別に
作成された給与支払報告書に記載し、これを当該市町村の長に提出しなければならない。
ただし、その給与の支払を受けなくなつた日の属する年に当該給与の支払をする者から支払を受けた給与の金額の総額が三十万円以下である者については、この限りでない。