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採用・法律

第135回 会社代表者の住所を非表示にする方法

中小企業の新たな法律リスク

代表取締役の住所を非表示にすることが可能になりました

代表取締役の住所の非表示措置を検討している田中社長は、賛多弁護士のもとを訪れました。

* * *

田中社長:私の大学生の娘が起業を検討しているようなのですが、代表取締役として自宅住所が公開されてしまうことに対して抵抗感があるみたいで、起業を躊躇しているようです。また、私自身も、現在、会社の代表取締役として住所が公開されていますが、家族のこと等を考えると非公開にしたいと思っています。

令和6年10月1日から代表取締役の住所を非公開にできるようになったみたいですが、今日はそのことについて教えていただけますか。

 

賛多弁護士:承知いたしました。

会社法上、株式会社の代表取締役等(株式会社の代表取締役のほか、代表執行役(指名委員会等設置会社の場合)、代表清算人(清算株式会社の場合)のことを意味します。)はその「氏名」と「住所」を登記する必要があります。そのため、登記事項証明書等を取得することにより、誰でも代表取締役等の住所を確認することができました。

しかし、住所というプライバシー情報の公開は、脅迫やストーカー行為に悪用される懸念がありました。

このような懸念を払拭するため、2024年10月1日から「代表取締役等住所非表示措置」という制度(以下「本制度」といいます。)が開始しました。本制度により、株式会社の登記事項証明書等に表示されている代表取締役等の住所を一部非表示にすることが可能となりました。

 

田中社長:本制度は、特に、女性や子育て中の方の起業の追い風となりそうですね。本制度を利用した場合、住所が一部非表示になるとのことですが、どのような住所表示になるのでしょうか。

 

賛多弁護士:本制度を利用した場合、住所は市区町村まで(東京都は特別区、指定都市は区まで)の記載となります。東京都の場合だと、以下のような表示になります。

役員に関する事項

東京都千代田区 

代表取締役 田中 太郎

 

田中社長:本制度を利用するためにはどのようにすればいいですか。

 

賛多弁護士:本制度を利用するための要件は、以下の2つです。

①登記申請と同時に申し出ること

設立の登記や代表取締役等の就任・重任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる一定の登記申請と同時にする場合に限りすることができます。代表取締役等住所非表示措置を講じることのみを単独で申請することはできません。

 

②所定の書面を添付すること

代表取締役等住所非表示措置を講じることの申出に当たっては、㋐上場会社か否か、㋑既に代表取締役等住所非表示措置が講じられているか否かにより、必要となる書面が異なります。

上場会社以外の株式会社が、新たに代表取締役等住所非表示措置を講じる場合に必要な書面は以下のとおりです。

(1) 株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面

 例:株式会社が受取人として記載された配達証明書(商号及び本店所在場所が記載された郵便物受領証も添付)、登記の申請を受任した資格者代理人において株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面

(2) 代表取締役等の住所等を証する書面

 例:住民票の写し、戸籍の附票の写し、印鑑証明書

(3) 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

 例:登記の申請を受任した資格者代理人が犯収法の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し

 

田中社長:本制度の利用は代表取締役等にとってはプライバシーが保護されますが、他方で、取引先や消費者等としては代表取締役の住所が非表示になると、債権回収や訴訟提起等の際に困るのではないでしょうか。

 

賛多弁護士:そのような場合には、法律上の利害関係を有する者は、代表取締役等の住所が記載された書面を閲覧請求することにより、住所を確認することが可能です。

 

田中社長:本制度を利用する場合のデメリットはありますか。

 

賛多弁護士:本制度が利用された場合、登記事項証明書等によって代表取締役等の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。

そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることを理解した上で、本制度の利用を検討していただく必要があります。

 

田中社長:ありがとうございました。起業を検討している娘にも、本制度について教えたいと思います。

* * *

2024年10月1日から「代表取締役等住所非表示措置」という制度が開始しました。本制度により、株式会社の登記事項証明書等に表示されている代表取締役等の住所を一部非表示にすることが可能となりました。

本制度の利用によって、代表取締役等のプライバシーが保護されることになります。

他方で、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。

本制度を利用するにあたっては、メリットとデメリットを踏まえた上で判断することが必要となります。

 

※参照資料

代表取締役等住所非表示措置について(法務省HP)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本充人

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