世界に注目される第18回中国党大会は、習近平総書記をはじめとする新体制の選出をもって幕を閉じた。よほどの事件がなければ、習近平体制は胡錦濤体制と同じように2期10年の長期政権となるだろう。
党大会で採択された「活動報告」は、2020年時点のGDPと国民所得の水準を2010年の2倍にするという長期目標を設定している。年平均7%成長をキープされれば、この目標は達成できる計算である。
筆者の試算では、向こう10年間、年平均経済成長率7%、インフレ率2%、人民元の為替レート2%高で計算すれば、2022年時点の中国名目GDPは米ドルベースで20兆ドル前後にのぼる。アメリカを凌ぎ、日本の3倍強に相当する世界最大の経済大国になる可能性が出てくる。日米欧先進国と違う政治制度を持つスーパーパワーの出現は、世界の政治・経済に与えるインパクトは計り知れない。習近平氏もアメリカを凌ぐ超大国のリーダーとして、その名を歴史に残すに違いない。
しかし、これはあくまでも仮説の話であり、世界ナンバーワンへの道のりは決して平たんのものではない。新体制の前に横たわる一連の政治・経済の難題をクリアしなければ、中国経済は途中で挫折する可能性が十分考えられる。
それでは、当面、習近平体制はどんな国内課題に直面しているだろうか?次の4つの課題が挙げられる。いずれも前体制が残される負の遺産である。
まずは「政経乖離」の是正である。ここ10年、中国の経済改革が先行しているが、政治改革は進展なく停滞している。政治改革の遅れによって、政治の不透明、腐敗の蔓延、人権侵害、法律無視などさまざまの問題が発生し、経済成長の障害ともなっている。抜本的な政治改革をしなければ、持続成長が期待されず、経済成長の果実さえ失う恐れがある。政治改革を決断ができるかどうか?またどこまで改革できるか?習近平氏の手腕が問われる。
2つ目は「国進民退」(国有企業が躍進し、民間企業が後退する)の問題である。金融、エネルギー、インフラなど一部の分野では、国有企業の独占が続き、民間企業の参入が厳しく制限されている。特にリーマンショック以降、中国政府は大型景気対策を発動し、その資金の大半は国有企業に流れ、民間企業が受けた恩恵は少ない。事実、アメリカの「フォーチェン」誌が毎年発表する「フォーチェン500社」リストに載る中国企業の数は年々増えているが、ほとんど国有企業である。こうした「国進民退」現象は市場経済に逆行するのではないかと、懸念する声が強まっている。国有企業ではなく、広汎な民間企業の躍進がなければ、経済の持続成長が難しい。「国進民退」をどう是正するかが習近平体制の重要課題となる。
第三に、「外強内弱」(外需に強く依存し、内需が比較的に弱いこと)の転換である。2001年WTO加盟後、中国の輸出は毎年2、3割増となり、輸出牽引型で高度成長を遂げている。しかし、リーマンショックによって、2009年中国の輸出は一転16%減少に転落した。ユーロ危機の影響で今年の輸出も目標の10%増に届かず一桁にとどまる見通しである。中国の主要輸出先の日米欧はいずれ景気低迷が続いている。それに加えて、中国国内の人件費アップ、原材料高、人民元切上げなど輸出コストが急増している。輸出依存型成長は限界に来ており、内需依存型成長への転換が求められている。習近平体制はどんな内需振興策を打ち出すかが注目される。
第四に、「官腐民怨」(役人が腐敗し、格差で国民の不満が募る)をどう解消するか。国民はいま最も怒りを感じる問題として、やはり役人の腐敗と貧富格差の拡大という二大「時限爆弾」が挙げられる。
現在、中国では役人の汚職など腐敗現象が蔓延している。最近、党員除名・公職追放処分を受け、逮捕された薄煕来・前重慶市書記と劉志軍・前鉄道大臣の罪の1つは、巨額の収賄疑惑が挙げられる。また、今年8月筆者の出張先である山東省には、黄勝副省長が汚職疑惑で摘発された。彼は46カ所の不動産を不正取得し、46人の愛人ももつと、中国の「環球人物」誌が報道している。こうした幹部腐敗は個別の現象ではなく、社会風潮として蔓延している。国際透明度組織の発表によれば、2011年「世界清廉指数ランキング」で中国は182カ国・地域のうち、75位とランクされるが、主要輸出国12カ国のうち賄賂が一番横行している国とされている。「党と国家の命運にかかわる」(温家宝首相)腐敗問題に対し、習近平体制はどう立ち向かうか?どう国民の要請に答えるか?その力量が問われる。
国民の不満の矛先は格差の拡大にも向けている。近年、高度成長が続く一方、貧富格差も拡大している。農村部、内陸部、貧困層の人々は、自分たちが高度成長からあまり恩恵を受けていないと、不平不満が募っており、農民暴動や反政府デモの形で爆発している。いかに格差を是正し、富の分配の公平さを保つか、またいかに成長と分配を両立させるかは、習近平体制の安定的な政権運営ができるかどうにかかわっている。
要するに、習近平体制の前には難しい課題が山積し、厳しい試練が待ち受けている。これらの難題をクリアしないと、経済成長の持続が難しい。最悪の場合、習近平体制は空中分解する恐れさえある。