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採用・法律

第57回 『在籍型出向で雇用が守れる?』

中小企業の新たな法律リスク

 都内で複数の飲食店を経営する山本社長は、新型コロナウィルスに係る緊急事態宣言を受け、都度、休業や時間短縮営業などをしてきました。雇用の維持が厳しい中、最近、新型コロナの影響を受けた企業が、従業員をまったく別の業種の企業に在籍型出向させ雇用を守りつつ、人件費負担を抑えている例があると聞き、山本社長は自社でも在籍型出向を検討したいと考え、賛多弁護士の事務所を訪問しました。
 
* * *
 
山本社長:緊急事態宣言を受け、弊社は売上が大幅に落ちております。当面は、新型コロナの影響で、厳しい経営状況が続くと思います。同じく新型コロナの影響を受けた企業が従業員を出向させている例があると聞きました。なんでも、従業員の雇用を守るための出向で、いずれその従業員に自社に戻ってもらうことができる出向だと言っていたのですが、どういった制度なのでしょうか。
 
賛多弁護士:それは、在籍型出向というものです。出向元企業と出向先企業との間の出向契約により、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、一定期間継続して勤務することをいいます。確かに、在籍型出向の場合、出向元にとっては、従業員の雇用を守ることができ、特段の事情がない限りいずれその従業員に戻ってきてもらうことができるというメリットがあります。
 
山本社長:弊社のような中小企業でも、在籍型出向をしている例はあるのですか? 
 
賛多弁護士:もちろんあります。コロナ禍において、一時的に業績が悪化してますが、長期的にみると慢性的な人不足業界である、飲食業や小売業、運輸業などで、従業員の雇用維持のために、利用されているようです。他の顧問企業からも同様の相談を受けています。
 
山本社長:雇用維持のため在籍型出向をする場合、どのようなことに気をつけなければならないでしょうか。
 
賛多弁護士:労働者は出向元と出向先の両方と雇用契約を結ぶことになるので、労務管理責任等があいまいにならないよう、それらの点について、契約でしっかり決めておく必要があります。
 
山本社長:具体的には、どのように進めていくことになるのでしょうか。
 
賛多弁護士:在籍型出向をする場合、従業員の個別的な同意か、もしくは、就業規則等の社内規定に基づき行う必要があります。
 
山本社長:弊社には、出向について定めた就業規則等はないので、個別的な同意を得るということになりますね。
 
賛多弁護士:そうですね。労働契約法14条で、労働者に出向を命じることができる場合でも、出向の必要性、対象労働者の選定等に係る事情等に照らして、権利を濫用したと認められる場合はその命令は無効となる旨規定していますので、この点、注意が必要です。出向の必要性や出向中の労働条件等については、労働者としっかり話をして、労働者に納得してもらったうえで行うことが重要です。
 
山本社長:わかりました。
 
賛多弁護士:次に、出向先との出向契約についてですが、同契約で、出向期間、職務内容、職位、勤務場所、就業時間、休憩時間、休日、休暇、出向負担金、通勤手当、時間外手当、その他の手当ての負担、出張旅費、社会保険、労働保険、福利厚生の取扱い勤務状況の報告、人事考課、守秘義務、損害賠償、解約等について、定めておくとよいでしょう。
 
山本社長:もし進める際には契約書の作成は、賛多先生にお願いしたいと思います。
 
賛多弁護士:承知いたしました。もちろん、出向元、出向先のどなたかが契約書を作り契約することもできますが、契約内容のほか雇用調整助成金等の助成金との関係で、記載すべき事項もありますので、専門家に依頼される方がよいと思います。
 
山本社長:ありがとうございます。
 
賛多弁護士:出向期間中の労働条件等については、出向元、出向先、労働者の三者で取り決めます。その取り決めに基づき、出向元、出向先が、労働者に対し、使用者として責任を負うことになります。
 
山本社長:明確にすることが重要ですね。
 
賛多弁護士:はい。そして、労働条件等については、労働者に明示する必要があります。労働契約の期間、期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準、就業場所、従事すべき業務、始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項、賃金の決定・計算・支払いの方法、 賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項、退職に関する事項等法令で定められている事項について、基本的には、出向先が労働者に明示することになります。
 
山本社長:わかりました。在籍型出向について従業員に納得のうえ同意してもらったうえで、出向先や従業員とよく話し合って、出向契約の内容や出向期間中の労働条件等を明確にするようにしたいと思います。
 
賛多弁護士:そうしてください。ところで、出向先のあてはあるのでしょうか。
 
山本社長:全くないわけではないのですが、まだ、具体的な話はしていません。
 
賛多弁護士:出向先は、産業雇用安定センターに相談することができるようです。他にも、同センターや自治体等により、在籍型出向についての相談会やセミナーも実施されているようです。
 
山本社長:支援してくれる機関があるのですね。出向先が見つかり、話が具体的になりましたら、賛多先生に改めて連絡をさせていただきます。
 
賛多弁護士:わかりました。ご連絡をお持ちしております。
 
* * *
 
 コロナ禍で、中小企業においても、雇用の維持を図るため在籍型出向を行っている例がみられます。本稿では、在籍型出向をする場合の注意点を記載しました。参考資料欄記載の厚生労働省作成の「在籍型出向 "基本がわかる" ハンドブック」には、在籍型出向における注意点のほか、就業規則の出向規程や出向契約等の参考例や、コロナ禍で在籍型出向の事例の紹介などもなされていますので、在籍型出向をご検討される際には、まずはこちらを一読されることをお勧めします。
 なお、本年2月に、出向元、出向先双方に対し、賃金などを助成する産業雇用安定助成金の制度が施行されました。こちらについては、参考資料の「「産業雇用安定助成金」のご案内」をご参照ください。
 
 
参考資料(厚生労働省HPより)
・在籍型出向 "基本がわかる" ハンドブック
 
・「産業雇用安定助成金」のご案内
 
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子

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