民間企業に対し「ムチ」から「アメ」へ方針転換
厳しい経済情勢に直面し、習近平政権は危機感を強める。一連の対策が検討され、その内の1つは民間企業に対し「ムチ」から「アメ」への方針転換だ。
周知のように、アリババ創業者であるジャック・マー(馬雲)氏は2020年10月にある会議で政府当局の金融監督体制を批判し、最高指導者を激怒させた。その結果、アリババの子会社であるアント・グループの香港・上海両証券取引所の新規上場が中止に追い込まれた。
翌年、当局は「独占禁止法違反」という理由で、アリババに182億元(約3,050億円)にのぼる巨額罰金を科した。また、「資本の無秩序拡張を防止」という大義名分の下で、アリババなど多くの民間企業に対するバッシングが始まった。
その結果、アリババ、テンセント、京東、美団など四大IT企業だけで、株式市場での時価総額は2年余りで1兆1000億ドルも損失した。中国民間企業の設備投資やイノベーションの意欲と能力が著しく低下し、海外に逃げ出す企業も続出している。
事実、中国税収の50%超、GDPの60%超、イノベーションの70%超、雇用の80%超が民間企業による寄与だ。民間企業の成長が無ければ、中国の経済成長もないと言っても決して過言ではない。しかし、今、中国の民間企業に元気がない。政府当局による民間企業へのバッシングは結局、中国経済に打撃を与え、ブーメランの形で政府の経済運営に悪影響を及ぼしている。
民間企業に対する「ムチ」対策の悪影響が色濃く出始め、転換せざるを得ない。そこで「アメ」の対策が打ち出された。最近、李強首相をはじめ政府高官が頻繁にアリババ、テンセント、美団など大手IT企業に秋波を送り、関係を修復しようとしている。党中央と国務院は「民間経済の発展と成長の促進に関する意見書」を発表し、民間企業への支持・支援姿勢を明確に示した。民間企業の力を借りて経済目標を実現させる中国政府の思惑が溶けて見えるのだ。
このほか、積極財政の拡大、企業負担の軽減、個人消費刺激、中小企業支援など複数の政府景気対策も用意されている。これらの景気対策が奏功すれば、今年5%成長の政府目標が実現されるかも知れない。