税法では経営は出来ません。
中小企業の経営者や経理の方、この言葉の意味。ピンと来るでしょうか。
極端なことを言いますと、中小企業の決算書は嘘なのです。言葉を代えていいますと、中小企業の決算書は、企業の実態を表してはいないのです。
理由は、税法のための決算をしているからです。つまり、税金の計算のために決算書を作成しているのであって経営のためではないからです。
税金のために決算をしてはいけないのか?
そう思われたとしても仕方がありません。
では、大企業は、税金のための決算をしているのでしょうか。答えはNOです。企業実態を出来る限り正確に表す為の決算を行っています。
両者は一体、何が違うのでしょう。
一番、簡単な例でいいますと、貸倒れがあります。
税法では、業種別に法定繰入率というものが決まっていて、ほとんどの中小企業がこの繰入率を使用しています。
業種 法定繰入率
卸売業・小売業 10/1000
割賦小売業 13/1000
製造業 8/1000
金融・保険業 3/1000
その他 6/1000
例えば、小売業で売掛金が5000万円あり、法定繰入率を使用しますと50万円になり、この金額が損金経理できる限度額になります。
この法定繰入率は資本金1億円以下の企業のみの適用なので、ほとんどの中小企業がこの対象になります。
ちなみに、貸倒引当金の繰入限度額の計算方法には、今の法定繰入率以外に貸倒実績率による方法があり、有利な方(繰入限度額が多い方)を選択することができます。
貸倒実績率による繰入限度額は、金銭債権の合計額に過去3年間の貸倒損失額の発生割合(貸倒実績率)を乗じて計算します。
式は次の通りです。
貸倒実績率=(過去3年分の貸倒損失の額の合計額×12/36)÷(過去3年分の一括評価金銭債権の合計額÷3)
例えば、売上債権が5000万円の場合、先ほどのように小売業では、法定繰入率は10/1000なので50万円が損金計上限度額になります。
仮に、本当に貸倒れの危険がなくても50万円は損金に算入でき、それだけ利益が過少に計上されます。
この段階ですでに決算書は企業の実態を表していないことになります。
逆に、取引先の中で、危ない会社あり、そこに対する売上債権が600万円あったとしても、損金にはおちないという理由で、費用として計上しないのです。
これが税法上の決算書の実態なのです。
会計上では、600万円は費用になり、それだけ利益は少なくなります。これが本当の実態です。
税務上では経営できない典型例です。
ちなみに、先ほどの回収できないかもしれないという600万円は、税法では損金にならないので、別表四で加算修正しなければ税金の計算は出来ません。
大企業の申告書は、別表四での修正は山ほどあります。
このような修正が面倒なので、中小企業は決算書も税法に合わせたほうが楽なのです。誰が楽かと言いますと、税理士です。税理士は税金の計算が業務なので、それ以上のことをあえてしません。
また、したとしても、顧問料は上がらないため、税理士からすれば余計なことはできない現実があります。
しかし、再度、言います。それでは企業の実態を表してはいません。
会計では、600万円も費用として計上しなければなりません。
もう一つの典型例の減価償却費は次回お話しします。