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第32話 鄧小平と毛沢東の「戦争」―薄煕来失脚事件研究(4)

中国経済の最新動向

 前回は毛沢東の「文革」路線回帰か、それとも鄧小平の改革・開放という現実主義路線継続かをめぐる胡錦濤執行部と薄煕来の熾烈な戦いを述べてきたが、それではなぜ「文革」回帰はいけないか。
 
 文化大革命(1966~76年)の本質は党主席の毛沢東が自分のライバルである劉少奇国家主席、鄧小平総書記を失脚させるための権力闘争であり、大衆運動の形で人権蹂躙の暴力行動である。文革の10年間、冤罪で刑務所や軟禁場所で死んだ人、「紅衛兵」等造反組織に殺された人、造反組織の批判・闘争に耐えられず自殺した人、造反組と保守組、或いは造反組同士の武闘で「戦死」した人など、いわゆる「非正常死」の死者数は2000万人を上回る。毛沢東による「大虐殺」と言っても言い過ぎではない。
 
 文革の10年間、法治社会が崩壊し、モラルも喪失した。政治混乱が続き、政府が機能せずマヒ状態となる。全ての学校教育は停止され、大量の文化財も紅衛兵に破壊された。国際的には、毛沢東の偏った革命路線の下で、米国、日本など西側陣営と挑発的な対峙が続くのみならず、ソ連をはじめとする共産圏とも対決姿勢を強める。周辺諸国には「敵」だらけである異常な時代だった。
 
 さらに、文革が中国経済に与えた悪影響が甚大である。1966~76年の10年間、経済成長率は1967年▼7.2%、68年▼6.5%、76年▼2.7%と、3年がマイナス成長を記録した(下図を参照)。文革終結の1976年、中国経済は崩壊寸前に陥ったのである。
 
china32_01.jpg 日本と比較した場合、文革の10年は中国が日本に逆転された時期である。 アンガス・マディソン著「世界経済の成長史1820-1992年」によれば、文革前の1965年、中国のGDPは為替レートでは日本より劣るが、購買力平価(PPP)では日本より大きかった。だが、文革によって、経済が凋落した結果、68年に中国が購買力平価でも日本に追い越されてしまった(下図を参照)。文革終結の1976年、日本のGDPは購買力平価(PPP)で中国の1.14倍、為替レートで中国の10倍に相当する。
 
china32_02.jpg 要するに、文革は中国の悲劇であり、国民の悪夢である。日本では、バブル崩壊後の10年は「失われた10年」と呼ばれるが、中国では、文革の10年は「失われた10年」と言われる。1981年6月、中国共産党は「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」の中で、文革について、「指導者(毛沢東)が誤って発動し、反動集団(林彪や江青ら四人組)に利用され、党、国家、各民族に大きな災難である内乱をもたらした」と結論付けた。
 
 この悲劇と悪夢を絶対に繰り返してはいけないことは、国民のコンセンサスとなっている。鄧小平の改革・改革路線は正に文革を完全に否定した上で導入したものであり、毛沢東の革命最優先路線から経済成長最優先路線への歴史的な転換である。文革否定なしでは改革・開放も急速な台頭もあり得ない。
 
 実は、日本でも「文革」が発生した。1968~69年の東京大学「安田講堂事件」である。当時、学生の自発的組織である全学共闘会議(全共闘)および新左翼の学生が、暴力的手段を伴って東京大学本郷キャンパスを違法に占拠していた。
 ただし、「安田講堂事件」は短期的に収束され、その影響は限られる。
 
 もし中国の「文革」のように、「安田講堂事件」が全国的な規模に発展し、しかも10年間続くならば、日本は政治的な混乱に陥り、高度成長が挫折するに違わない。今の日本もある筈がない。そう考えれば、中国国民の文革への強い違和感は分からない訳でもない。
 
 次回は薄煕来失脚事件による中国経済への影響があるかどうか、また「親日派」と呼ばれる薄煕来の失脚は日本企業の中国ビジネスに影響を及ぼすかどうかについて、解説を進める。

 

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