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第67話 中国の「畏友」と「錚友」リー・クアンユー氏 ~リー・クアンユー・鄧小平会談秘話~

中国経済の最新動向

 シンガポール「建国の父」リー・クアンユー初代首相は3月23日に91才で亡くなり、中国の李源潮国家副主席や日本の安倍首相など多くの外国指導者が参列する国葬が3月29日(日)に行われた。
 
 リー氏は中国の鄧小平氏、マレーシアのマハティール元首相などと並ぶ国際影響力がある、20世紀のアジアを代表するリーダーの1人である。
 
 中国の習近平国家主席はリー氏を「中国人民の老朋友(古い友人)」と称賛した。中国にとって、リー・クアンユー氏は尊敬される「畏友」であり、議論を恐れず率直な意見も述べられる「錚友」(そうゆう)でもある。
 
 その一例として、ここで1978年11月鄧小平氏のシンガポール訪問時のリー氏との会談秘話を紹介する。
 
 1978年11月、鄧小平氏は日本訪問(同年10月)に続き、シンガポールを訪問した。毛沢東時代の中国は、シンガポールに対して日本と同様に「アメリカ帝国主義の手先である」と批判してきた。中国が「アメリカ帝国主義の手先」と糾弾してきた国々にもかかわらず、そこから学ぼうとしたことが、鄧小平氏の偉大たるゆえんである。
 
 シンガポールでは、鄧小平氏はリー・クアンユー首相とトップ会談を行った。鄧小平はのちに、「シンガポールに行ったのは、彼らがどのように外資を利用しているかを視察するためだった」と、ある会合で明かしている。
 
 事実、シンガポールは外国資本の工場から利益を得ていた。外国企業の利益の中から35パーセントを納税させ、それを国家財政収入としていた。外国投資は、シンガポールのサービス業の振興にもつながっていた。サービス業が儲かり、利益が上がれば、国の収入も増える。雇用確保という面でも、外資の導入は大きな役割を果たしていた。中国はシンガポールに学び、外資を誘致しようと、鄧小平氏は考えていた。
 
 鄧氏はシンガポールから謙虚に学ぶという姿勢を明確に打ち出した。この変化に、リー氏は感動を覚えた。
 
 会談の際、鄧小平氏はこれからの中国についてリー氏に意見を求めた。すると、リー氏は答えた。
 
 「中国は、革命の輸出をやめてください。イデオロギーの輸出をやめてください。具体的には、マレーシア共産党、インドネシア共産党への支持をやめてください。特に、中国の華南地域にある対シンガポールのラジオ放送をやめてください」と。
 
 率直な意見を申し入れたリー氏に、鄧小平氏はびっくりしたという。うなずきもしなければ、反論もしなかった。だが、帰国後まもなく、対シンガポールのラジオ放送をやめ、東南アジア諸国の共産党および共産ゲリラへの支援もやめた。
 
 リー氏はその後の回顧録で、次のように語っている。
 
 「鄧小平のような共産党リーダーは見たことがない。現実と向かい合い、自分の既存の考え方を捨て、しかも私に向かってどうすればいいかと意見を求めてきた。私が提案した要求は、鄧小平氏にとってはどれも不愉快なものである。それでも彼は自分の考え方を変えようとした」と。
 
 シンガポールはイギリスの植民地であったが、リー首相の指導の下で、先進国並みの発展ぶりを実現させていた。シンガポールは華人国家でもある。そのシンガポールの成長から、鄧小平は中国の成長のヒントを掴み取ろうとしていた。
 
 鄧小平はさらに、「シンガポールは都市国家である。中国が仮に上海ほどの国土であれば、たぶんシンガポールのような発展ができるのではないか」とも発言している。これに対し、リーはこう答えた。
 
 「シンガポールの華人たちは中国から逃げてきた貧困の人たちで、土地もなく、金もない裸一貫の人たちばかりだった。優秀な官僚、優秀な知識人はすべて中国に残っている。中国が自国の優秀な人材を活かせば、シンガポールを上回るはずだ」
 
 ある意味では、中国に競争をけしかけているとも受け取れる発言である。
 
 シンガポールで大いに刺激を受けた鄧小平は、中国はシンガポールの国家マネジメント手法から学び、将来はシンガポールを追い越さなくてはならないと強く考えるようになる。
 
 リー・クアンユー・鄧小平会談秘話から、リー氏が尊敬される「畏友」と議論を恐れず率直な意見を述べられる「錚友」である姿が浮き彫りになる。リー・鄧トップ会談以降、リー氏及びシンガポール政府は、蘇州シンガポール工業団地、無錫シンガポール工業団地などを相次いで開発し、巨額な対中投資を実施し、対中協力に注力してきた。一方、リー氏は時々、中国に対し厳しい意見を述べ、対中警戒も忘れてはいない。
 
 実際、アメリカのアジア回帰の「リバランス戦略」はまさにリー氏がアメリカに提案したものである。2009年、リー氏はアメリカで講演した際、「アメリカは東アジアから手を引けば、東アジアは完全に中国の影響下に入り、それはアメリカの覇権の終わりを意味する」と警鐘を鳴らした。オバマ大統領はリー氏の忠告を受け入れ、翌年に正式にアジア重視の「リバランス戦略」を打ち出した。
 
 シンガポールは小さい国である。米中二大国に挟まれるシンガポールは生き残るために、アメリカと中国の間に絶妙なバランスを取りながら国の進路を切り開いていく。この意味では、リー・クアンユー氏はしたたかさを持つ老獪な政治家と言えよう。

 

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