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番外編 チームを変身させた岡田彰布の監督術(上)

指導者たる者かくあるべし

 四球は安打に匹敵する(“あたり前”を徹底させる)

 2023年のプロ野球は、阪神タイガースの18年ぶりセリーグ制覇に続いて、オリックス・バファローズがパリーグ三連覇を決め、関西は歓喜に沸いている。とりわけ昨年優勝候補に挙げられながらリーグ3位の“ダメ虎”を監督就任一年目で一気に高みに押し上げた岡田彰布(おかだ・あきのぶ)の用兵術に注目が集まっている。そのリーダーシップは組織経営の教訓に満ちあふれている。番外編として緊急レポートする。

 今年の阪神の強さの特異さを示す興味深い数字がある。9月22日現在、4位と低迷している巨人と比べるとよくわかる。本塁打数は76本と巨人の161本の半分にも満たないリーグ5位だ。3割打者は一人もおらず、チーム打率も.248で巨人の.254を下まわっている。ところが得点は527で巨人の508を上まわるリーグトップだ。


 この打線の効率の良さを裏付けているのが四球の多さだ。9月14日現在で、その数452個で昨年一年間の358をすでに大きく超えてダントツのリーグ一位だ。


 数字が示す通り、「四球は安打に匹敵する」のである。


 岡田は監督に就任して春のキャンプ以来、「当たり前のことを当たり前にやっていれば勝てる」と選手たちに言い続けた。四球を選ぶのも、そのあたり前の一つで、「カウントを追い込まれるまで自分が待つ球だけを振っていこう」と徹底して戒めた。

 

 球団に掛け合い選手に徹底させる(方針を制度化する)

 そこから先が岡田の偉いところである。四球選択を制度化したのだ。


 プロの打者というのは、「打ってなんぼ」の世界。待てと言われても打ち気にはやる。「俺のバットで走者を返す」と力んで振り回す。悪球に手を出し凡退する。昨年までのチームが「超積極野球」を掲げていたからなおさらだ。主軸の佐藤輝明が長打狙いで悪球打ちを繰り返して成績が下がっても、ベンチは黙って使い続けた。


 シーズン開幕に先立って岡田はフロントと掛け合い、シーズン後の打撃成績査定で四球数を査定ポイントに加えるように交渉して認めさせたのだ。そしてそのことを選手に伝え、「四球選びは球団のお墨付きやで」と徹底させた上でシーズンに突入する。これで四球が増えないわけがない。


 打者の成績に監督がインセンティブを与えるやり方はこれまでもある。2003年に阪神をリーグ優勝に導いた名将・星野仙一は、選手の活躍に対してポケットマネーから報奨金を出したことで知られる。しかしその星野でも四球に金を出すまねはしなかった。しかも監督個人の報奨金は、親分子分の絆を深めたとしても、監督が去ってしまえば、それまでのこと。球団に掛け合って制度化した岡田方式なら、その方針はチームに根付くことになる。


 岡田がケチでポケットマネーを惜しんだわけではない。球団と掛け合う岡田のやり方こそ大阪商人的で知恵に富んでいる。


 おかげで、佐藤のなんでもかんでも振りまわす打席は鳴りをひそめ、四番の大山悠輔もリーグ一位の四球93を選び、打率は3割を切っているものの出塁率は4割を超えてチャンスを確実に広げている。

 

 「アレ」を目指す(目標の明確化)

 戦う集団をまとめ上げるには、目標を明確にして、はっきりと示すことが求められる。


 今年2月1日、沖縄・宜野座村(ぎのざそん)でのキャンプ初日、あいさつに立った岡田は、「アレを目指して宜野座村でスタートし、シーズンでアレを勝ち取り、アレの喜びを宜野座村の皆さんと分かちあいたい」と、アレ、アレを連発した。


 「アレ」とはもちろん、18年ぶりのリーグ優勝のことである。あえて優勝の二文字を封印したのにはわけがある。岡田自身、前回優勝の3年後の2008年、巨人に13ゲーム差を逆転されて優勝を逸した過去への自虐もある。それを逆手にとって選手たちに「アレ」と言い続けることで、優勝という目標をより強く意識させた。


 選手だけではない。球団も、チームロゴに「ARE」とあしらって、シーズン初めから、「(優勝)キャンペーン」を張る。秘すれば花。ファンも、シーズン終盤まで居酒屋で集まると訳のわからない「アレ」談義に花を咲かす。夏以降、関西は「アレ」フィーバーに沸き立った。


 9月14日の甲子園、9月に入って負けなしの阪神は宿敵巨人相手に11連勝で「優勝」を飾る。試合後の岡田は、「きょうで『アレ』は封印。優勝を皆で分かち合いたい」と初めて悲願の二文字を口にする。そして、共通の目標である「アレ」に向けて一丸となり戦ってきた選手たちの手で18年ぶり二度目の宙に舞った。

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