国際通貨基金(IMF)は、4月12日に改定した世界経済見通しを発表した。IMF報告書は新興国の景気減速や先進国の景気低迷及び長引く原油価格安などの懸念材料を指摘し、2016年世界経済見通しを今年1月時点の予測3.4%から3.2%へ引き下げた。また、米国経済成長率も2.6%→2.4%(▼0.2)、ユーロ圏1.7%→1.5%(▼0.2)、日本1%→0.5%(▼0.5)などそれぞれ下方修正した(下表を参照)。
IMF世界経済見通し(2016年4月時点)
2016年 | 2017年 | |
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世界全体 | 3.2(▼0.2) | 3.5(▼0.1) |
米国 | 2.4(▼0.2) | 2.5(▼0.1) |
ユーロ圏 | 1.5(▼0.2) | 1.6(▼0.1) |
中国 | 6.5(0.2) | 6.2(0.2) |
日本 | 0.5(▼0.5) | ▼0.1(▼0.4) |
インド | 7.5(0.0) | 7.5(0.0) |
ロシア | ▼1.8(▼0.8) | 0.8(▼0.2) |
ブラジル | ▼3.8(▼0.3) | 0.0(0.0) |
ただし、中国経済については、IMFは今年の成長率を6.3%から6.5%へ、2017年も6.0%から6.2%へとそれぞれ0.2ポイント引き上げた。中国は主要国の中で、経済見通しをIMFに上方修正された唯一の国となっている。
それでは、なぜIMFは主要国の経済見通しを相次いで下方修正しているなか、中国経済だけを上方修正したのか?結論から言えば、IMFは中国政府が打ち出した景気刺激策を高く評価した結果だと思われる。
周知のように、今年3月上旬に開かれた中国全人代において、李克強首相は「政府活動報告」の中で、2016年の政府活動方針として強力な景気刺激策を打ち出した。その主な内容は次の3つである。
1つは財政出動に関するほぼ満額回答だ。財政赤字を2015年より5600億元(約9.5兆円)を増やし、GDPに占める比率も昨年度の2.3%から16年度の3%へと大幅に拡大し、約5000元規模(8.5兆円に相当)の企業と個人向け減税措置を実施する。
2つ目は通貨供給を増やし、金融緩和を継続する。通貨供給量(M2)は2015年の12%増から16年の13%増、銀行貸出残高も前年比13%増に拡大する。
3つ目は大規模なインフラ投資を実施する。中身として、鉄道投資8000億元強(13.6兆円強)、道路整備1.65兆元(28兆円強)、空港や港湾整備などを含むと、インフラ投資総額は40兆円を大幅に上回る。リーマンショック時の57兆円規模に次ぐ大きさである。
これまでの世界主要国が打ち出した景気対策を見る限り、中国政府の経済政策は最も具体的で、規模も一番大きいものと言わざるを得ない。IMFはまさに中国政府の効果的な経済政策を評価していると思われる。
実際、上述した中国政府の景気刺激策の実施によって、経済効果も出始めている。今年3月、個人消費は前年同月比10.5%増で1~2月期の10.3%増より0.2ポイント拡大し、輸出は11.5%増で9カ月ぶりにプラスに転換した。鉱工業生産は6.8%増で1~2月の5.4%増より1.4ポイント拡大、製造業購買者指数(PMI)も50.2で8カ月ぶりに好不況の分水嶺である50を上回る。1~3月の設備、インフラ、不動産などを含む固定資産投資は前年同期比10.7%増で、昨年実績の10%増より0.7ポイント増えた。
国家統計局の発表によれば、今年第1四半期のGDP成長率は6.7%で、昨年第4四半期の6.8%より減速したものの、政府目標の6.5~7%を達成している。
今後、景気刺激策の効果が徐々に現れることによって、今年後半、経済成長率が上向く可能性が高い。通年の成長率が昨年の6.9%より若干低いものの、6.5%以上を達成できると、筆者は見ている。言い換えれば、IMFが示した4月時点の中国経済見通しを上回ることがあっても、下回ることはない。