量子コンピュータの開発は、ファイマンというノーベル物理学賞を受賞した学者が、化学反応における分子の振る舞いなどは今の方式のコンピュータ(古典的コンピュータ)では正確にシミュレートすることができず、「自然は古典的ではない。だから、もし自然をシミュレーションしたいなら、量子力学的に作るべきだ」として、「量子シミュレーション」のアイデアを提案したことが出発点とされている。
量子コンピュータは古典的なビット(0か1)の代わりに、重ね合わせの状態をとりうる「量子ビット」(0、1、0と1の重ね合わせ)という性質を利用することで、複数の計算を同時に実行できるものだ。
その後、十分な性能を持つ量子コンピュータがあれば、インターネットなどで使われている「RSA暗号」を1週間で解けるということが分かり(現在のスーパーコンピュータでは宇宙の歴史の400倍の時間を要する)、量子コンピュータへの研究開発には学術界の枠を超え、世界中の政府や大手企業からの多額の資金が投入され、第一次ブームとなった。
最近では量子コンピュータが特定の計算問題で、既存の世界最高性能のスーパーコンピュータの能力を上回ることを実証した「量子超越性」(2019年)というGoogleの論文により、第二次ブームが始まっている。
■Alice&Bob(アリス&ボブ)
6月のフランス視察ツアーで訪問した「Alice&Bob」は、現在の量子コンピュータ開発で注目されている「誤り訂正」という分野で有効とされている「キャット(猫)量子ビット」という方式に特化した量子コンピュータのチップを作っているベンチャー企業で、Googleの方式の1/10の量子ビット数を実現している。



量子ビット数が少なくなれば冷却・制御(データセンター)のコストが大きく下がり実用に一段と近づくため、現在の量子コンピュータの技術競争は「誤り訂正をどう小さく実装するか」に移っている。
Alice&Bobは、今年6月にはフランス政府系の成長支援プログラム「French Tech Next40」に量子分野で初めて選出されるなど、フランス政府からも後押しされている。
パリで視察した時に見たマイナス273度に冷やされた超伝導方式の実験用量子コンピュータは、思ったほど大きなものではなく驚いたが、2030年までに100論理キュービットの量子コンピュータ「Graphene」をパリ新ラボで稼働させる計画で、2030年を量子コンピュータ元年としている。
量子コンピュータは全ての計算でスーパーコンピュータより速いわけではないが、化学(電池・触媒)、材料探索、複雑な組合せ最適化(在庫・配車)といった領域では非常に有用なため、今後の開発が期待される技術だ。
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●Alice&Bob(アリス&ボブ)
https://alice-bob.com





















