わたしたちの社会生活は、実は、すべて、バランスシートに支配されていることを知っていたでしょうか。国や地方公共団体は、それぞれのバランスシートに、会社は会社のバランスシートに、そして個人は個人のバランスシートに支配されているのです。
たとえあなたがバランスシートのことをあまり知らなくてもこれは間違いないことです。
◆静かなバランスシートが突然変貌する
バランスシート。普段はとても静かです。だから、沈黙の決算書といわれることがあります。しかし、ある時、音をたてて、牙をむいてきます。会社の場合、倒産です。個人では破産です。
沈黙のバランスシートが音をたてて牙をむいてくる前に、バランスシートの改善を図ることが大事なのです。
どんな時代でもバランスシートがしっかりしていますと、少々のことではぐらつきません。厳しい時代だからこそ、素晴らしいバランスシート(ここでは魔法のバランスシートと呼ぶことにします)を持っていてほしいと思います。
景気の良し悪しを、世間一般的にはGDP(国内総生産)や会社の売上などで判断していることは周知の事実です。このため、新聞等で大企業が過去最高の売上を計上しているから景気がいいと報じることがよくありますが、多くの人はピンと来ないと思います。
いくら売上が過去最高といわれても景気がいいと実感しないどころか、不安でいっぱいと感じています。
この理由を一言でいいますと、国、地方公共団体、大企業、中小企業、そして個人のバランスシートが悪いからです。つまり、悲劇のバランスシートを背負っているのです。
悲劇のバランスシートは、簡単にいえば、債務超過、すなわち資産より負債が多い状態になっているバランスシートをいいます。たとえ債務超過でなくても維持費のかかるバランスシートを持っていれば、それも悲劇のバランスシートになります。借入のできないバランスシートを持っていても同じです。
多くの会社や個人、そして行政が悲劇のバランスシートに支配されているのが現状です。だから、内外環境の変化があれば、収益が極端に落ち込み、将来がとても不安になってしまいます。経営や生活の基盤となりますバランスシートの状態が良くないため、それが将来への不安感につながっていきます。
これでは、消費や設備投資も減退し、景気が悪くなってしまうのも仕方がありません。
バランスシートというものは、一度、悪くなりますとなかなか元には戻りません。原因を断ち切らないとますます悪くなっていくという性格を持っています。
私はこれまで、経営者として自分自身の会社のバランスシート、公認会計士として上場会社や上場準備中の会社、そして中小企業のバランスシートを数多く見てきました。
また、証券会社において、投資銀行業務や株式公開業務を行った際、投資先等のバランスシートも見てきました。
売上が増加し、利益もしっかり計上しているにも関わらず、悲劇のバランスシートのため、資金が不足し、経営が安定しない会社が本当に多いのです。
逆に、損失が続いているにも関わらず、魔法のバランスシートを持っていたため蘇る会社もあります。
事業を継続させることはとても大変です。だからこそ、魔法のバランスシートを手に入れていただきたいと切に願います。
この魔法のバランスシートについては第16号以降でお話します。
◆バランスシートを見る経営
ところで、日頃からバランスシートを見ながら経営をするということはなかなかありません。もちろん、バランスシートは損益計算書と違い、毎日見る必要はありませんが、月に一度は経営をチェックする意味でバランスシートを見なければなりません。
しかし、現実はどうでしょう。特に、中小企業は、日々、資金繰りに追われているため、資金繰り表を作成し、いつ、資金ショートするかを事前に知り、その対策に走っているのが現実です。
ですから、中小企業の多くは、バランスシートどころか損益計算書すらみる余裕がありません。家庭においては、ほとんどが、バランスシート感覚がない生活を送っていると思います。毎月の資金収支がどうなっているのかを感覚的につかんでいることが関の山です。
ゆとりある会社経営や家庭生活を送るためには、魔法のバランスシートを手に入れることが不可欠です。そして、バランスシートが会社経営や家庭生活のために大切だという志向こそが、魔法のバランスシート獲得の第一歩になってきます。
バランスシートというものは会社設立から今日まで、長い期間、繰り越されてきたものですから、突然、夢物語のようなバランスシートを描いても、それはあまりにも非現実的です。
どんなバランスシートが自分にとって魔法のバランスシートなのかを明確にイメージすることが、まずは大切になります。
経営分析をする場合、資産の内容を吟味せずに、流動比率がいいからと言ってその会社のバランスシートがいいというわけではありません。
流動資産に、たとえば売掛金という将来の収入源があっても、本当に回収可能かの判断をどこまで厳しく追及しているか疑問になる会社がたくさんあるからです。このような資産を前提にいくら経営分析をしても何も意味がありません。
流動比率200%以上、当座比率100%以上であれば健全経営であるといった判断基準がありますが、そもそも中小企業の決算書は税務上の決算書です。正直、この決算書を元に経営分析をしても何も意味がないとまでは言いませんが、そんなものです。
経営分析ではいい結果なのに、どうしてうちの会社はこんなにしんどいのかといわれる経営者もいます。答えは、収益を生む資産が少ないためです。特に地方になればなるほど、資産が多くありますが、残念ながら収益を生まない資産が大半です。
収益を生まない資産は、維持費という支出がかさんできます。
このような場合は、資産の中身を変えてみることです。一度、現金に変えて、収益を生む資産へと変革することです。確かに、不動産、特に土地は地方になれば様々なしがらみがあり、なかなか売却するには勇気がいるかもしれません。
しかし、そのために、費用ばかり出るバランスシートのままでいい訳がありません。競売になってしまうより、自らが手放すことが大切です。
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