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第43話 それは偶然の「いい波」だったのか?

北村森の「今月のヒット商品」

 サーフィンの世界でよく言われることがあるそうです。「いい波をとらえるにはどうすればいいか」。その答えは、最後にお伝えしますね。

 

 新型コロナウイルス感染拡大下の社会で、私は「折り合いをつける」ことがキーワードであると常々感じています。仕事でも私生活でも、どうしても制約が生まれます。理想と現実の狭間で、どう折り合いをつけるかが大事になってくる。

 

 ただし、この折り合いというのは、単なる妥協とはちょっと違う気がしています。もっと積極的にと言いますか、前向きに折り合いをつける意識が重要で、だからこそ、そうしたニーズに応える製品やサービスこそが、このコロナ禍で注目を浴びているとも言えます。自宅で過ごす時間が増えたことで、家庭用プロジェクタである「popIn Aladdin 2」がヒットしたり、高級キッチン小物である「バーミキュラ フライパン」が品薄になったりしているのは、まさに「少しでも楽しさを創出してくれる折り合い」を果たせるからこそでしょう。

 

mori431.png

 

 で、今回取り上げる商品です。上の画像をご覧ください。3Dで表現されている世界がパソコン画面上に表示されています。いったい何? テレビゲームソフトの1シーン? 違うんです。

 

 これ、仮想オフィスです。インターネット上にオフィス空間があって(仕事部屋とか会議室とか応接室とか)、そこに毎日“出社”する仕組み。アバターという「自分の分身」をキャラクター化した人物が、そのオフィス空間にいる感じになる。

 

 その名を「クラウドオフィスRISA」といいます。昨年(2020年)の秋にサービス開始となったもので、大阪のベンチャー企業であるOPSIONが開発しました。企業や部署単位で登録して利用するイメージで、すでに300社ほどからのトライアルユースの申し込みがあり、さらに大手企業なども正式導入していると聞きます。

 

 こうした仮想オフィスのサービスって、いくつも登場していますが、このRISA は、テレビゲームを思わせるような3D表現を果たしているのがミソです。

 

 オフィス空間もアバターも3Dで表現されているので、臨場感がある。自分の存在を示すアバターは自分好みに服や靴まで設定できます。

 

 RISAの仕様はシンプルながらうまくできている印象です。例えば、いま自分に話しかけられてもいい状態かどうか、離席中かどうかなど、アイコンで表示できます。同僚と会話したいときは、実際の音声でも伝えられます。オフィス空間にいる同僚のアバターに手を振ったりもできる。で、会議室にこもって、お互いのリアルな音声で打ち合わせも可能。その会議室にはカギもかけられるというのが、また心憎い設定に感じられました。

 

 それがどうした?と思われるかもしれませんけれど、同僚にちょっと話を聞きたいなどというときに、オンライン会議システムなどに繋ぐよりもはるかにハードルが低いんですね。で、その仮想オフィスの会議室に入って、複数人での会議もできる。この仮想オフィスを使うと、同僚とつながっている感覚も得られて、寂しくないでしょうね。そこが大きい。で、それは仕事の成果にも間違いなく好影響をもたらすと思います。これなど、「楽しく折り合いをつける」という話の好事例ではないでしょうか。

 

 「つながっている」「相手がそこにいる」感覚は、テレワークでの意欲上昇に役立つでしょうね。料金は、1アバターあたりで月額500〜2000円だそう。

 

mori432.png

 

 このRISA、先ほど昨秋のスタートとお伝えしましたけれど、実は同社は2019年の初めに一度、同じような仮想オフィスを開発して、世に問うていました。こういう仮想世界こそが社会には必要な存在だという確信があったから、だといいます。

 

 ところが「日本ではテレワークはまだ一般的ではない」「このサービスに将来性はあるのか」という疑問の声が外部から挙がった。そして実際、2019年秋ごろには資金難に陥り、サービスは終了、開発チームは完全解散となりました。

 

 同社の代表はそこから別の新サービスの構築を目指し、ベンチャー企業としての先達である人物に必死に教えを乞うたりするなど、懸命に動きました。2020年に入って、経理のアウトソーシングサービスを始めようと判断したこともあった(代表はもともと公認会計士の有資格者です)。

 

 でも、その経理サービスはすぐに止めた。本当にやるべきことは何なのかを考えて、再び、仮想オフィスサービスの構築に動いたんです。それが2020年春のこと。つまり、コロナ禍が問題化し始めた時期ですね。

 

 代表は、すぐさま仮想オフィスの再構築に不可欠なエンジニアを集めます。4人の実力派が呼応してくれ、一度は撤退した仮想オフィスのシステムを彼ら4人が必死に改修してくれたそうです。そして2020年秋の再リリースとなり、今度はたちまち脚光をあびるサービスとなった、という話です。

 

 冒頭の話に戻しますね。サーフィンの世界で「いい波をとらえるには」……。それは「準備こそが必要」なのだそうです。

 

 復活なったRISAが脚光を浴びたのは、このコロナ禍のテレワーク浸透が追い風となった、つまり、いい波にうまく乗った、という話というだけでは決して説明がつかない、と私は思います。

 

 同社の代表は準備に力を抜かなかった。いったんサービス休止となった後も諦めずに事業の継続を模索し、ベンチャー企業の先達に何度もアドバイスを求めた。そして、再起を期するにあたって、凄腕のエンジニアをすぐさま探し当てる努力を惜しまなかった。

 

 だからこそのヒットなのだと感じましたね。

 

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