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経済・株式・資産

第160話 閉塞感が漂う中国経済

中国経済の最新動向

 現在、中国経済に閉塞感が漂っている。市場も投資者も中国経済への懸念や警戒感が高まっている。

 

◆「論忠行賞」の指導部人事に失望感

 先週土曜日の10月22日、習近平国家主席は第20回中国共産党全国代表大会が「成功裏に閉幕した」と宣言した。翌日の23日に新しい中央指導部が選出され、3期目の習近平新体制が発足した。

 

 週明けの24日に、第3四半期GDP統計が発表された。今年7~9月期のGDPは前年同期比3.9%増と、市場の事前予想(3.4%増)を上回った。

 

 本来ならば、党大会の「成功」及び市場予想を上回るGDP成長率の発表というダブル好材料が出たため、資本市場は「お祝儀相場」になる筈だった。

 

 ところが、蓋を開けて見れば、株価は上昇ではなく、暴落した。24日上海総合指数は前日比で2.02%安、香港ハンセン指数は6.36%安で取引を終えた。ハンセン指数は2009年4月以来、約13年半ぶりの安値を更新し、1日の下落率としては08年11月以来の大きさだった。同日の人民元対ドルレートも0.32%安の7.2629元/ドルで年初来の安値を更新した。市場は明確に3期目の習近平政権指導部人事に「NO」をつけたのだ。

 

 中国共産党一党支配の正当性は経済成長及びそれに伴う国民生活の向上にある。従って、これまでの党指導部人事は、GDP成長など実績重視の「論功行賞」とバランス重視の党内派閥均衡を2大特徴としてきた。しかし、今回の指導部人事は慣例を打ち破り、「論功行賞」ではなく習近平氏への忠誠心を最重要視する「論忠行賞」を行い、党内派閥均衡ではなく、「習近平派独占」体制を敷く、という特徴を示している。

 

 中央政治局常務委員の顔ぶれを見よう。表1の通り、習近平氏、習の側近である趙楽際氏及び習の首席ブレーン王滬寧氏ら3人が留任したほか、上海市書記李強氏、北京市書記蔡奇氏、中央弁公庁主任丁薛祥氏、広東省書記李希氏ら4人は昇格した。

 

 図1の通り、今年4~6月のGDP成長率は上海▼13.7%、北京市▼2.9%、いずれもマイナス成長に転落した。にもかかわらず、2市の書記が常務委員に昇格された。なぜか? 最大の理由はほかでもなく習主席への忠誠心だ。李と蔡は2人とも習氏が浙江省書記時代の部下であり、習氏の最側近の2人と見なされる。ほかに丁薛祥氏は習氏が上海市書記在任中の秘書であり、「側近中の側近」と言われる。李希氏は嘗て陝西省延安市書記に在任した時、習氏が「下放」時代に過ごした同市梁家河村を聖地化させ、習氏への忠誠心を誰よりも早く示し、習氏の厚い信頼を得た。実績より忠誠。これは今回幹部選抜の基準だ。

出所)各地方統計局の発表により筆者が作成。

 

 新指導部は腹心と側近で固め、「習氏一強体制」が敷かれた。前指導部には李克強首相や汪洋政治協商会議議長など経済重視の穏健派が存在し、トップの独走を防ぐチェック機能やブレーキ機能が多かれ少なかれ働いてきた。だが、「習一強体制」の下では、「チェック・アンド・バランス」(権力の抑制と均衡)が欠如し、トップの暴走を誰も止めないリスクが増大しかねない。株価の暴落と人民元対ドルレートの安値更新は、新指導部人事に対する失望感の現れであり、中国経済の行方に対する市場や投資者の強い不安と警戒が読みとれる。

 

 

◆「ゼロコロナ」政策の継続を懸念~「封城書記」が次期首相へ 

 今回の指導部人事につき最大のサプライズは「封城書記」と呼ばれる李強上海市書記が政治局常務委員に昇格し、次期首相に内定されたことである。

 

 これまでの慣例では、初代の周恩来氏を除き、歴代首相が例外なく現役副首相から選出してきた(表2を参照)。ところが次期首相に内定された李強氏は副首相経験がなく中央政府での勤務経験さえもない。地方指導者からいきなり全国経済活動を指揮する首相になるのだ。李氏はこの大任に応えられるか? 中国をめぐる内外環境が悪化するなかで、難しい経済運営をこなし様々な難局を乗り切れるか? 市場は次期首相に疑問符を付かざるを得ない。

 李強氏はゼロコロナ政策を実行し、2カ月以上にわたり上海ロックタウンを実施した。結果的には、同市の景気後退とサプライチェーンの断裂をもたらし、今年第2四半期GDP成長率が▼13.7%という統計開始以来最悪の水準を記録した。マイナス成長全国ナンバーワンの書記が次期首相に抜擢されるのに対し、国民の違和感が否定されず、党内の反発・抵抗も予想される。

 

 さらに「封城書記」が次期首相になれば、ゼロコロナ政策が継続するのではないかを市場や投資者が危惧している。コスト無視、現実無視で不人気のゼロコロナ政策が継続すれは、閉塞感は益々強まり、世界に孤立する恐れがある。

 

 

◆「共同富裕」の取り組み加速で中国経済停滞の恐れ

 党大会で改正された党規約では、「共同富裕」や「東西南北中、党がすべてを指導する」という内容が明記される。党の指導の下で現代化を進める方針が確認され、当局の統制が一段と強化されるとみられる。

 

 特に経済政策でも習氏主導が強まるのは確実で、「共同富裕」など習氏肝煎りの取り組みが加速しそうだ。

 

 格差是正、共同富裕は中国共産党が目指す理想的な目標であり、世界各国の共通課題でもある。格差是正の意味では習氏が唱える共同富裕は正しいと思う。

 

 しかし、共同富裕はあくまでも長期的な目標であり、一朝一夕に達成できるものではない。共同富裕政策実行の過程において、各地方で短期化され、断片化されたケースが続出している。その結果、「殺富済貧」(金持ちを殺して貧困層を救う)や「殺鶏取卵」(鶏を殺して卵を取る)が始まったのではないかと危惧され、投資者と富裕層に恐怖感が広がり、「中国離れ」が加速している。

 

 イノベーション分野では、ファーウェイ、アリババ、テンセントなど民間IT企業は先導役を果たし、中国の研究・開発をけん引している。「共同富裕」の名目で、民間企業の取り締まりを強化すれば、経済成長主役の1人である民間企業の意欲を削ぐ恐れがあり、さらなる閉塞感を招きかねない。24日の香港株式市場では、アリババの株価は11%超下落し、上場来の最安値を記録した。テンセントの株価も11%安く、年初来の安値を更新した。両社の株価暴落は、中国政府の民間企業対策の不透明性に対する懸念と警戒の現れにほかならない。

 

 中国政府は中華民族の復興を掲げ、2049年まで社会主義強国の実現を目標としている。その前提条件は安定かつ持続的な経済成長である。成長が無ければ「共同富裕」も中華民族の復興も社会主義強国の実現も夢のままに終る。共産党一党支配の正当性も無くなる。

 

 米中対立が益々激しさを増し、アメリカによる厳しい対中制裁が続くなか、国家安全と経済成長をどう両立するか? 漂う中国経済の閉塞感をどう打破するか?3期目の習近平政権にとって、これは最大の課題ではないか、と筆者が思う。 

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