■道の駅の温泉はいまいち!?
「道の駅」に併設される温泉が全国規模で増えている。道の駅は、現在、全国に1200カ所ほどあり、そのうち約150カ所に温泉が併設されているという。
ドライブやレジャーに出かけた先で、気軽に汗を流すことができるので重宝する存在だが、温泉そのものの質に関していえば話は別だ。
道の駅は、人が多く集まる場所だけあって、浴室の設備や湯船は立派になる。だが、それらをまかなうだけの湯量が湧出している温泉はまれなので、そうなると、残された道はひとつ。湯を使い回す「循環ろ過」しかない。大勢のお客が入浴すれば、当然ながら塩素殺菌も不可欠である。
だから、道の駅の温泉は、浴室に入った瞬間にプールのような強烈な塩素臭が漂い、湯の個性が死んでしまっていることも多い。有名な温泉地に併設された道の駅の温泉施設にもかかわらず、「循環ろ過が当たり前」というケースも少なくないのだ。
だが、なかには源泉かけ流しにこだわっている施設もある。そんな貴重な存在のひとつが山口県の中央部、四方を山に囲まれた美祢市の「道の駅おふく」に併設された日帰り温泉。弘法大師が開いたという伝説が残る古湯・於福(おふく)温泉を気軽に楽しむことができる。
■全浴槽が源泉かけ流し
国道316号線沿いにある「道の駅おふく」は、地元の名産を扱った売店やレストランなどを備えている。その一角にある温泉施設はコンクリートづくりで、良くも悪くも〝普通″の建物である。唯一個性的といえるのは、看板に「全浴槽源泉かけ流し」と大々的に謳っているところだろうか。
私が訪れたのは開館時間の午前10時前(平日は11時から)だったが、すでにロビーには10人ほどの入浴客が待機中。どうやら人気は上々のようだ。
男女別の浴室内は、タイル張りで味気がない。内湯や露天風呂のほか、ジェット風呂や打たせ湯、サウナなど設備は充実しているが、一見すると、「全国どこにでもありそうな没個性的な浴室」である。
しかし、さすがは「全浴槽源泉かけ流し」。「道の駅の温泉は湯質がよくない」という負の常識を覆してくれた。タイル張りの内湯、露天のトルマリン風呂ともに透明の単純温泉が湯船からざばざばとあふれ出ていく。湯量が豊富だからこそできる贅沢な使い方である。
■冷たいけれど新鮮な源泉
内湯も露天もなかなかの入浴感であるが、私がいちばん気に入ったのは、25.4℃の源泉がそのままかけ流しにされている源泉風呂。3人ほどが浸かれる小さな湯船だが、その分、加温もされていない新鮮な湯が、もったいないほどにあふれ出していく。
25℃というと、ほとんど水風呂のような泉温なので、あまり長くは浸かっていられないが、湯の質はピカイチ。シンプルでしっとりとした湯は、スベスベとした肌触りが特徴。しかも、しばらくじっとしていると、体中に小さな気泡も付着する。泡が付着するのは、源泉が新鮮である証拠。私が知るかぎり、道の駅の温泉で泡付きが見られるのは、「おふく温泉」くらいだろう。
なにより、25.4℃の源泉風呂を用意する心意気がアッパレである。道の駅には、常連だけが利用する施設と違って、さまざまなお客がやってくる。せっかく源泉浴槽をつくっても、「湯が冷たい」とクレームを言うお客もいるので、加温してしまうのが現実だ。そのようなリスクを冒してまで、温泉の質にこだわる施設の意気込みが、湯からひしひしと伝わり、感激である。
源泉風呂に浸かっていると、60代くらいの地元の常連さんが「やっぱり、この湯船がいちばんだぁ」と言いながら同じ湯船に体を沈めた。25.4℃の浴槽がお気に入りとは、温泉の違いがわかる人に違いない。
私が「いい湯ですね」と言うと、常連さんは意外な事実を教えてくれた。「昔はここも温泉を使い回していたから、ほとんど来なかったんだよ。でもボーリングをしたら、大量の温泉が湧き出してね。湯が格段によくなったから、それ以降、毎日のように通っているんだ」。それから15分間、常連さんの温泉自慢は止まらなかった。それほどに、すばらしい湯ということか。