■多種多彩な「鳴子温泉郷」
飯坂温泉(福島県)、秋保温泉(宮城県)とともに「奥州三名湯」と称される宮城県の鳴子温泉郷の最大の魅力は、バリエーションに富んだ温泉が揃うところにある。
鳴子温泉郷は、おもに5つの温泉地で構成されている。もっとも温泉街の規模が大きく、大型旅館から湯治宿まで宿もバラエティーに富む「鳴子温泉」、湯治場の風情を色濃く残し、黒色の温泉が湧く「東鳴子温泉」、田園風景がのどかで、エメラルドグリーンの美しい湯が印象的な「川渡(かわたび)温泉」、ぬるぬるすべすべとした湯が特徴の「中山平温泉」、キャンプやスキーなどのレジャーが楽しめる高原の湯「鬼首(おにこうべ)温泉」の5つだ。
なかでも、温泉のエネルギーをさまざまな形で体感できるのが鬼首温泉。温泉好きにとっては、正真正銘のパワースポットと言ってもよいだろう。
まずは地獄地帯。鬼首温泉は地熱が高い地域であることから、高温の湯がいたるところから湧き出し、もくもくと白い水蒸気が噴き出す。遊歩道が整備された吹上地獄谷や、野湯(湯船や脱衣所が整備されていない自然の中の湯)が点在することで知られる荒湯地獄を散策するだけでも大地のエネルギーを感じられる。
もうひとつは間欠泉。「鬼首かんけつ泉」の園内では、100℃を超える熱湯が約10分おきに15メートルほどの高さで噴き上がる様子が見学できる。天に向かって一直線にほとばしる間欠泉のさまは、まるで地球が呼吸しているかのようだ。
■泉温は地球の気分しだい
温泉のパワーを視覚的に楽しんだら、今度は肌でそれを感じるのがいちばん。間欠泉の近くにある一軒宿、吹上温泉「峯雲閣」は、全国的に見てもめずらしい湯浴みを楽しむことができる。
なんと、露天風呂の横を流れる天然の川自体が温泉なのだ。川のいたるところから温泉が湧き出しており、それが川の水と混ざって浸かるのにちょうどよいぬるま湯になる。
ということは、雨で増水すれば普通の川になってしまうし、冬場は寒くて湯浴みどころではない。まさに自然任せの湯なので、いい湯加減の川に浸かれるかどうかは「地球の気分」しだい。もちろん混浴だ。
入浴に適している時期は、5~10月頃。筆者が訪ねたときは12月初旬。笑顔で出迎えてくれた女将さんに「川の温泉は入れませんよね?」とダメもとで尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「今年は暖冬のようで、まだなんとか入れる泉温ですよ。こんなことは初めてです」とのこと。地球温暖化の影響なのだろうか。個人的にはうれしい誤算であった。
■「湯滝」に打たれる
男女別の内湯から外に出ると、30人は入れそうな大きな混浴露天風呂がある。川沿いにあって開放感も抜群のロケーションだが、ここまで来たら、やはり目の前を流れる温泉の川に入らずにはいられない。
川に向けて歩を進めると、河原の小石が足の裏を刺激する。少し痛いが、天然の川ゆえの試練である。
おそるおそる川の温泉に足を入れる。つ、つめたい……。30℃くらいはありそうだから入れないことはないが、全身を沈めるにはちょっと勇気がいる。しかし、川底から温泉が湧き出している部分を見つけてしまえば大丈夫。
しかも外気温が10℃以下だから、川に入ってしまったほうが暖かい。さすがに体が暖まるほどではないが、「天然の川の温泉に浸かっている」という状況にテンションが上がり、寒さも忘れてしまう。
特筆すべきは、この川の温泉には湯滝があるということ。数メートルの落差のある滝は、もちろん温泉だ。滝壺で滝に打たれる。冷たくて、体が受ける衝撃も強いけれど、自然と一体となったような感覚は、これまでに味わったことのないような快感。自然と笑顔がこぼれる。
泉温がぬるめなので、暑い季節に入れば最高の湯加減だろう。「今度は夏に訪ねよう」と心に誓って帰路に就いた。