前回は、教えるときに上手く相手に届くポイントとして「聴覚情報―『感じの良い挨拶と返事』と『品格を伝える言葉遣い』についいて」をお話しました。今回は視覚がカットされる『電話応対の仕方について』お話します。
職種にもよりますが、「電話応対」と言う言葉で一般的に思い浮かべるのは固定電話です。もちろん新人研修の項目に、「電話応対の仕方」は含まれていますが、この固定電話が新人さんの家にすでにないという現実が、少し前から起こりはじめています。ということは、社会人になって初めて突然仕事で使うことになり、新人さんにはハードルが高いのです。これはある意味ストレスにもなります。(入社二年後に転職された新人さんの転職理由の一つが、電話応対をクリア出来ないと伺ったことがあります)さらに「見えない相手」との会話です。
しかし新人さんは、「見える相手」とのコミュニケ―ション力も以前より落ちていると感じます。それはコロナ禍対応で致し方なかったですが、人とのコミュニケーションを著しく遮られてきました。指導をなさる方は、スタートラインで新人さんはすでにいくつかのストレスを抱えているとご理解ください。これらのことを踏まえて電話応対の仕方に進むと指導を受け入れていただきやすいです。
電話応対については、研修でも使用している8大原則を使って説明します。
1. 第一声は明るく爽やかに
「挨拶」の第一声と同じで何にもまして、「明るさ」が一番です。私は新人さんに目の前に話す相手がいるとイメージしてアイコンタクトも取りましょうと言います。そして指導をなさるあなたが現実に新人さんと向かい合って座り、新人さんからしっかりアイコンタクトを受けてください。アイコンタクトを取る目線の高さの確認が出来ます。同時に笑顔はすでにここで準備が出来ていないと口角があがっていないので、明るい声は出せません。第一声の第一音目に拘ります。
新人さんに「おはようございます。○○商事、○○と申します」を言ってもらいます。このセンテンスを5回練習の指示を出し、一回ごとにあなたは褒めるところ、課題とするところのコメントを伝えます。時にはお手本も示します。一回で二つのコメントですから、コメントの数は合計10回です。教える方も本気、教えられる方も本気、これが大切です。(「教えることは学ぶこと」を実感できると思います)
2. 待たせたら詫び言葉
・ベル3回~「お待たせいたしました」
・ベル5回~「大変お待たせいたしました」
昨年のある新人研修のアンケートの中に、「電話応対でベル1回の所要時間は約3秒と習いました。今まで一度も相手をお待たせする意識をしていなかったので、お客様の時間を奪わないよう気をつけたい」というのがありました。この方はきっと現場ですぐに実践なさると嬉しく拝読いたしました。
ただ、会社の電話は、「いつ・どんな状況」で鳴るか受けて側には予測できません。その意味では、お客様ファーストをモットーとしていても、心ならずお待ちいただくこともありえ得ます。そこで必要なのがこれらの詫び言葉なのです。不本意にお待たせしてしまったら、「おはようございます」や「お電話ありがとうございます」の挨拶言葉はカットして、「お待たせいたしました」や「大変お待たせいたしました」にすぐに変えます。この良い例と悪い例をあなたが新人さんに聞かせて「納得」を引き出してください。
3. 名乗らない相手には名前を確認
出来るだけ早いタイミングで自分の名前を改めて名乗り、お客様のお名前を伺います。例えば、「恐れ入ります。私は松尾と申します。お客様のお名前をお教えいただけますでしょうか」など。「頂戴できますか」はNGです。相手の名前はもらえませんから使えません。この説明も加えてください。時々「頂戴できますか」をお使いになる方もまだいらっしゃいます。
4.取次
取次には、名指し人が「在席」と「離席」の場合があります。「在席」であれば「少々お待ちください」と言って再確認し、速やかに取次ます。この時気を付けるのは、「少々」のテンポです。早めに言いますか?それとも丁寧にゆっくり言いますか?両方の言い方を新人さんに聞いてもらって選択を促しましょう。
名指し人が「不在」のときは、「あいにく○○は席を外しております。〇時頃には帰社いたします。いかがいたしましょうか」というセンテンスが便利です。二点の大事な言葉が入っています。「あいにく」という副詞はそれだけで今○○さんは不在であることを予告できます。音声表現を申し訳なさそうにするのがポイントです。「いかがいたしましょうか」は、「○○様のご意向に沿って行います」を含むセンテンスです。心遣いはさりげなくが上質な応対です。これらの2点をしっかりお伝えください。
5.仲間話に気を付ける
皆さんは、電話の子機は何メートル四方の音を拾うと思いますか?答は5メートルです。想像より広い範囲の音を拾うと驚きませんでしたか。ということは、まさかという言葉まで相手に聞こえているということです。一般的に気を付けることの上位は笑い声です。電話でないときでも、たまたま通りがかった時数人が笑っていたとします。そんなはずはないと思っても「もしかしたら私のこと笑っていると不安を感じませんか。電話の向こうでそれが起こると、不安はさらに大きいですね。
あるいは、商品の原価などの話をしていたらその声は落とすか、メモのやり取りに変えるのが安全です。反対に相手側の5メートル四方の音も拾いますから、「お忙しいご様子ですので、改めてお電話をおかけいたしましょうか」のような気配りも提案できます。
6.間違い電話も丁寧にする
間違い電話は電話番号を何かの原因で間違えてかけてきています。「違います」だけで応対するとまたすぐにかかってきてしまいます。
自分ではせっかく第一声が明るく爽やかにいえたと思っている時に限って間違い電話のときがあります。すると「違います」が思った以上にきつい言い方で相手に届いてしまいます。心情の変化が起こることも説明なさるとよいです。「お客様、何番にお掛けでしょうか」と正しい番号を聞きとってから、「私どもの電話番号は「○○〇―○○○○でございます」と優しい口調でお伝えください。
7.復唱・確認はしっかりとする
お客様がおっしゃったことは、「必ずメモをしておく」が前提条件です。確認ですから、口の開閉を意識してください。日本語の特徴としてイ段の音を発声するときにあまり口を横に開くことがありません。(写真を撮るときの「チーズ」はこの理由からです)特に数字の確認には「イチ」なのか・「シチ」なのか・「ハチ」なのか・・・意識をして発声すれば間違いは防げます。
8.別れの挨拶はきちんとする
一本の電話応対が終わったとホッとするのは、自分が受話器を置いてからです。ところがもうすぐ終わると感じてしまうと、音声表現もそこで終了してしまいます。今までの良い電話応対はどこにいったのといぶかしくなるくらい応対に温度差が出てしまいます。電話応対コンクールの審査員を長くいたしておりますが、その差は驚くほどです。
また受話器を置くタイミングは、必ず相手が受話器を置く音を確認してからです。たとえ相手に見えていなくてもクロージングの言葉は上半身でお辞儀をしながら伝えると抑揚が上手く乗ります。
電話のかけ方は、受け方の心配りが全部利用できます。受け方との大きな違いは自分で電話をかける時間を自分で決められることです。かける前に、相手ファーストのかける時間・かける内容に必要な書類・明るい第一声や笑顔の準備などをしっかり整えます。受け手の立場の電話応対より、気持ちが少しだけ楽かも知れません。