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第181話 中国電気自動車(EV)の輸出に異変

中国経済の最新動向

 中国電気自動車(EV)の輸出に2つの異変が起きている。1つ目はこれまで好調を続けてきたEV輸出に陰りが出始め、4月から2カ月連続の減少に転じた。2つ目は輸出先のトップ交代だ。本稿はこの2つの異変を検証する。

 

2カ月連続の「ダブル減少」

 中国自動車工業協会の発表によれば、今年4月、EV輸出台数が8.9万台で、前月比▼10.9%、前年同月比▼2.4%と、近年来初めての「ダブル減少」となった。

 続いて5月にも、EV輸出が7.7万台で、前月比▼13.8%、前年同月比▼22.3%と、初めての2桁「ダブル減少」となっている。

 4月、5月の2カ月連続減少によって、1~5月累計で中国が41.4万台のEVを輸出しているが、前年同期に比べれば▼1.8%の減少となっている。

 近年来ずっと好調が続いてきた中国EV輸出にとって、2カ月連続の「ダブル減少」は異常と言わざるを得ない。この異変が後で述べるEU(ヨーロッパ連合)の中国製EV関税対策と切っても切れない関係にある。

 

ブラジルが中国EVの最大輸出先へ

 もう1つの異変が中国EV輸出先のトップ交代だ。

 これまで中国製EVの最大輸出先はEU加盟国のベルギーだった。ところが、中国乗用車市場情報連合会(乗連会)の発表によれば、今年4月に中国新エネ車(EV及びPHEV)のブラジル向け輸出が前年同月比で12倍増の40,159台にのぼり、昨年首位のベルギー(25,298台)を大幅に上回った。3月に続き2カ月連続で、ブラジルが中国EVの最大輸出先となった(図1を参照)。1~4月累計でブラジル向け新エネ車輸出が85,466台にのぼる。

 ブラジルは2023年新車販売台数が230万台超で、中南米最大、世界6位の自動車市場を誇る。昨年のEV販売台数も91%増の9万3900台となり、同国史上最多を記録している。

 今年に入ってから、ブラジルのEV販売台数はさらに拡大している。4月は前年同月に比べ爆発的な11倍増、PHEVも2倍増となっている。新エネ車の市場シェアが4.7%に達し、昨年同期より3.6ポイント拡大した。

 モデル別の販売実績を調べれば、4月ブラジルのEV販売急増は、中国ブランドによって支えられた事実が浮き彫りになる(表1を参照)

 新エネ車販売台数トップ10のうち、中国ブランドは8モデルを占める。うち、中国EV最大手のBYDはトップ3を独占し、上位10モデルのうち、5モデルを占める。

 中国以外のブランドは2モデルしかランクされず、スウェーデンのボルボは8位、ドイツのBMWは10位とそれぞれ占める。トップ10のうち、日本車の姿が見られない。

 

EUでの現地生産を推進する中国メーカー

 中国EV輸出台数のダブル減少も輸出先のトップ交代も、その背景にはEU(ヨーロッパ連合)の中国製EV関税対策の影響がある。

 EUは、中国から輸入されるEVが、中国政府からの補助金を受け、EU市場での競争を歪め、ヨーロッパの企業に損害を与える恐れがあるとして、2023年10月から調査を行っていた。

 そして、今年6月12日にEUの執行機関、ヨーロッパ委員会は、中国から輸入されるEVについて、すでに課している10%に加え、暫定的に関税を上乗せする方針を明らかにした。上乗せ関税率は最大で38.1%で、中国当局との協議で状況が改善しなければ、7月4日以降に正式に発動する予定だ。

 中国製EVをめぐって、米バイデン政権が今年5月に、関税を25%から100%に引き上げると発表済。EUの方針はこれに続くもので、中国側は強く反発している。

 これまで中国製EVは米国にほとんど輸出されなかったため、バイデン政権の高関税率による実質的な影響が小さい。しかし、EUは中国製EVにとって、最大の輸出市場であり、輸出全体の約4割がEU向けのものだった。EUが中国製EVに対する追加関税を正式発動すれば、中国メーカーに深刻な打撃を与えかねない。

 その影響を最小限に抑えるために、中国メーカーは2つの対策を取った。1つはEUへの駆け込み輸出という短期的なものだった。ピークは今年3月で、EV輸出は前年同月比41%増の10万台に達した。駆け込み輸出の反動として、4月と5月のEV輸出は2カ月連続の減少に転じたのだ。

 2つ目は長期的なもので、リスクを分散し輸出の多様化を図る対策だ。前述したブラジルがベルギーに代わり中国製EVの最大輸出先になったことは、正に輸出多様化の一環である。

 EUとの貿易摩擦を回避するために、中国メーカーは輸出多様化のほか、EV生産の現地化も推進している。

 BYDは昨年12月にハンガリー南部のセゲドに同社初の欧州乗用車工場を建設すると発表。今年4月、奇瑞汽車はスペインの自動車工場を買収し、ヨーロッパ市場向けの現地生産拠点にする計画を明らかにした。長城汽車は、ハンガリーやチェコなど東欧で工場建設を検討。上海汽車は英国で工場の建設を計画している。

 1980年代の日米自動車摩擦が示すように、貿易摩擦の解消には輸出の多様化と生産の現地化が不可欠だ。中国とEU間の電気自動車摩擦も最終的に中国メーカーの努力によって解消されるだろう。(了)

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