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税務・会計

第122回 銀行借入金の限度額を返済能力で計算する

賢い社長の「経理財務の見どころ・勘どころ・ツッコミどころ」

銀行融資枠は債務償還年数で決まる

中小企業にとって、事業の継続と成長に欠かせないのが銀行融資です。

しかし、「いくらまで借りられるのか?」「これ以上融資は難しいのか?」といった疑問を抱いている社長は少なくありません。

中小企業が銀行から融資を受ける際、融資金額の判断材料として、銀行が重視するのが、会社の返済能力を示す「債務償還年数」です。

これは、会社が現状の利益を維持した場合、何年で借入金を完済できるかを示す指標です。

社長としては、銀行に融資の申請をする前に、自社の決算書を見て、銀行の融資限度額の目安を計算できるようにしておきたいところです。

そこで今回は、借入限度額を決める債務償還年数について、説明します。

 

会社の借入金をあと何年で返済する予定ですか?

 

債務償還年数は借入金完済までの年数

債務償還年数とは、会社が稼ぐキャッシュフローで、借入金を完済するまでに何年かかるかを示す指標です。

銀行は、この年数が短いほど企業の返済能力が高いと判断します。

 

債務償還年数は次の計算式のとおり、借入金残高をキャッシュフロー(営業利益+減価償却費)で割って算出します。

債務償還年数 = 借入金残高 ÷(営業利益 + 減価償却費)

 

たとえば、借入金残高が1億円、年間の営業利益が800万円、減価償却費が200万円の場合、債務償還年数は10年となります。

借入金1億円 ÷(営業利益800万+減価償却費200万)= 債務償還年数10年

 

債務償還年数は、一般的に次のように評価されます。

3年以内:優良

7年以内:良好

10年以内:健全

15年以内:普通

20年以内:注意

20年超:危険

 

銀行によって若干の違いはありますが、一般的な目安としては10年以内が望ましいとされています。

中小企業の平均値としては、業種によっても異なりますが、おおむね7~10年程度で推移していることが多いようです。

 

つまり、会社の年間キャッシュフローの約10倍の金額が、その会社の借入限度額ということになります。

ですので、債務償還年数が長くても15年以内が許容範囲とされ、これを超える場合は融資審査が厳しくなる傾向にあります。

 

多くの企業では、コロナ禍の緊急融資制度により一時的に借入金が増加し、債務償還年数が延びる傾向が見られました。

現在は徐々に改善傾向にあり、銀行は、借入金の返済状況や、今後の収益改善の見込みを勘案して慎重に融資状況を見極めるようになっています。

 

直前期の決算数値で計算すると、債務償還年数は何年ですか?

 

月次決算で借入金とキャッシュフローを点検

債務償還年数は年次の決算書だけでなく、月次決算で常にモニタリングすることが重要です。

年次決算は、毎月の月次決算の積み重ねですので、月次金額の推移を見ながら、会社のキャッシュを稼ぐ力を確認するようにしましょう。

 

借入金の増減は、返済予定表を見ながら、短期借入金と長期借入金の毎月の残高を確認します。

社長としては、会社がいま現在いくら借り入れていて、毎月の返済額、そして当期末の借入金残高の予定額を常に頭に入れておきます。

 

次に、毎月の営業利益と減価償却費が返済原資(キャッシュフロー)になります。

利益が安定して出ていることに加えて、季節変動などを考慮して傾向を把握しておきしましょう。

賞与支給月など、臨時支出で一時的に赤字になる場合は、四半期や半期の数字の平均で管理するようにします。

減価償却費は、計算上の費用で支出を伴わないため、債務償還年数の計算ではキャッシュフローに加算されます。

月次決算で減価償却費を計上してない場合は、営業利益だけで管理します。

 

借入金の残高を月次のキャッシュフローで割ると債務償還”月”数ですので、これを12倍すると債務償還年数になります。

したがって、月平均の営業利益の約120倍(12ヵ月×10年)が、借入限度額の目安と考えられます。

 

銀行の担当者に月次試算表を見せるときには、必ず借入金とキャッシュフローをチェックされますので、きちんと説明できるように準備しておきましょう。

 

前月の営業利益で計算すると借入限度額はいくらですか?

 

債務償還年数を改善するための施策

債務償還年数を改善するには、「返済能力を高める」または「借入金を減らす」ことが基本です。

 

返済能力(キャッシュフロー)を増やすには、営業利益の改善が必須です。

仕入経費の見直しや、業務の効率化など、常に経営努力を継続していても、物価高や賃上げが先行し、思うようにコストが下がらないのが現状です。

コスト増に見合う価格転嫁のための値上げ交渉が、中小企業経営者の課題と言えます。

売上利益を増やすために、新規顧客開拓や、既存顧客へのアプローチ、新商品・サービス開発なども並行して実施します。

 

中小企業で余剰資金がある会社は、少ないでしょうから、債務償還年数を改善するために繰り上げ返済をして借入金を減らすのは現実的ではありません。

しかし、遊休資産や不採算事業の売却で得た資金がある場合には、借入金の返済に充てることも検討してください。

今後の事業拡大のために、増資をして自己資本を増強し、相対的に借入金比率を下げておくのも有効です。

 

特に事業承継を見据える場合には、財務の健全性は後継者への引継ぎでも重要です。

中小企業庁や金融庁は、近年「経営者保証に依存しない融資」への転換を進めています。

借入金に対する社長の個人保証を外すためには、財務内容が一定以上健全で、債務償還年数が概ね10年以内が条件になっています。

したがって、早い段階から債務償還年数の改善を意識した上で、銀行としっかり対話し、会社の返済能力だけで融資を受けられる経営状態へ移行しておきましょう。

 

銀行借入金に社長の個人保証が付いていませんか?

 

銀行に会社の返済能力をアピールして信頼を得る

今回は、借入限度額を決める債務償還年数について、説明しました。

 

ポイントは次の3つです。

  • 債務償還年数は10年以内に維持する
  • 月次のキャッシュフローで借入限度額の目安を見積もる
  • 債務償還年数を改善して社長の個人保証を外す

 

「借りられる金額」は「返せる金額」です。

債務償還年数は、会社の返済能力を判断する重要な指標です。

日頃から、月次レベルで債務償還年数の改善に努めることにより、銀行担当者の突然の訪問にも慌てずに対応でき、銀行と安定的な信頼関係を築けるようになります。

社長が自信を持って自社の返済能力を語ることにより、金融機関だけでなく後継者からも信頼されるようになっていきます。

 

自信を持って銀行に返済能力をアピールしていますか?

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