「トップクラスの米資産家ファミリーをクライアントに持つGENSPRING社 (ファミリーオフィス)によると、世代間資産移転
の失敗原因が「お粗末な相続税対策案や投資の失敗」である場合はごくわずかで、全体の3%以下であるとい う。
G社は、350のウルトラリッチなファミリーの相続対策に従事してきた経験をもとに、
資産継承に資する「25のベストプラクティス」を推奨している。
大きな柱の一つが「ファミリーの団結力、ファミリーとしてのアイデンティティを持つこと」である。
そのため家族の価値観、ファミリーの歴史、家族文化を次 世代、次々世代へと申し送る、家族が集まるイベントを催す、
同じボランティアや慈善活動で汗をながす、家族、一族が互いに助け合う互助システムを構築する、などを勧めている。
すべて「密なるコミュニケーション」を促すものである。
実際、資産継承失敗の60%はファミリー内のコミュニケーションや信頼上の問題から起るという調査レポートさえある。
コミュニケーションの他、「子弟に起業させる、あるいは起業の計画を建てさせてビジネスの実務を習わせる」、
「金銭教育を行う」等の後継者育成もベストプラクティス項目の重大要素だ。
しかし、いくら親の方が「そろそろ継承させよう」と意気込んでも、後継者にその心の準備がなければことはうまくいかない。
継承の失敗例を調べたところ「後継者の準備不足」が25%ものケースにみられたそうだ。
そのため、ファミリーによっては継承を想定してまず後継者にアクションを起こさせ、
「後継者の準備度」の評価を行うといい、それによって従来気づかなかった問題も見えてくるという。
こうした継承ノウハウは欧米の大学・大学院・或いはファミリー企業家向けセミナー等で教えられ、
互いの経験が分かち合われるのだが、日本ではそのような機会は少ない。
それのみならず継承のキーとされる家族間のコミュニケーションにも問題が多い。
日本人はとかく「親の背中を見せればいいんだ」「黙っていて も通じるのが家族だ」と考えがちだが、
時に親子間の認識のギャップに唖然とすることがある。
やはり自分の信念、気持ち、想いはきちんと伝えなければ理解さ れないのである。
また家族史や家族・一族アルバムづくり、父母、祖父母、一族のエピソード、信念などを語り伝えることは
資産のあるなしにかかわらず重要と、私はこの十数年 「家族文化の継承」を提唱している
榊原節子