■「屋久島」は温泉の宝庫
世界自然遺産として人気を集める屋久島は、樹齢7200年といわれる縄文杉やダイナミックな滝など見どころが多く、島内を散策すれば屋久島固有のヤクシカやヤクシマザルなどとも出会える自然豊かな島だ。そんな屋久島は、温泉が豊かな島でもある。
島の南側にある磯辺から湧き出している「平内海中温泉」は、温泉好きの人にとって憧れの露天風呂。名前の通り「海中」に湧く温泉で、満潮時には水面下へ沈んでしまうため、干潮時の前後2時間くらいしか入浴できない。つまり、時間限定の天然露天風呂である。入浴したいなら、事前に干潮の時間を調べておかなければならない。
午前7時47分。干潮の時間に合わせて海へ。温泉までは舗装されていて歩きやすいが、それ以外はゴツゴツとした岩が顔を出している磯の風景。こんな自然の中に温泉が湧いているのか、と考えるだけでワクワクする。
海に向かって歩いていくと、湯船らしき窪地が見えてくる。その数メートル先には、ザパーン、ザパーンと勢いよく波が押し寄せてきている。「野趣あふれる」とは、こういうときに使う言葉なのだろう。

当然ながら、混浴である。脱衣所などは設けられていないので、岩陰などで着替えることになる。ちなみに、バスタオル巻きはOKだが、水着の着用は不可。混浴に抵抗のある人にとっては少しハードルが高いかもしれない。
■岩の間からぷくぷくと
入浴できそうな湯船は3つほど。400年ほど前に海岸の岩の間から湧き出しているのを発見した島の人たちが、岩を削って今の湯船の原型をつくったという。したがって、湯船の底はゴツゴツとした天然の岩である。
「こっちの湯船のほうが温かくて、景色もいいよ」と先客に促されて、湯船に身を沈める。46.5℃の源泉が湯底の岩の間からぷくぷくと湧き出しているのがわかる。湯が出ているところに足を近づけると熱く、源泉の力強さを肌で感じられる。筆者が入ったときは適温だったが、干潮になって間もない時間帯は、きっと海水が残っていて冷たいだろう。運がよかった。
意外だったのは、硫黄由来のゆで卵臭がしたこと。海岸に湧く温泉のほとんどは、塩分のきいた塩化物泉であるが、平内海中温泉はゆで卵臭がほんのり香る単純温泉。潮風が運んでくる海の香りと硫黄由来の香りがまじりあう。他ではあまりないシチュエーションだけに新鮮である。
宿泊した民宿の主人から「12月から2月にかけて南岸の海にクジラが姿を見せる」と聞いていたので、沖合に目を凝らしたが、残念ながらその姿は拝めなかった。湯船からクジラを発見できた人は、かなりの幸運の持ち主だろう。
青い海に、青い空。潮騒をBGMに湯船に浸かっていると、日頃の疲れや悩みも吹き飛んでしまう。一緒に入浴した地元の人いわく、「夜もおすすめだ」という。屋久島は夜空がキレイだ。今度訪れたときは、満天の星の下、この温泉に入浴してみよう。
■絶景温泉と足元湧出泉
屋久島には、平内海中温泉のほかにもすばらしい湯が湧いている。海岸沿いに湧く「湯泊温泉」は、水平線を一望できる絶景の露天風呂。1つの湯船が真ん中で仕切られ、男女別に入浴できる(水着不可、女性は湯浴み着可)。透明の源泉は約38℃のぬる湯。夏場に最適の泉温だが、それ以外の季節はじっくり長湯を楽しめる。
「尾之間温泉」は、集落の人が毎日のように通う共同浴場。屹立した大岩壁が特徴のモッチョム岳の麓に約350年前から湧く湯だ。浴室に入るとカラフルな壁の絵が目に飛び込んでくる。モッチョム岳や集落に伝わる棒踊りの様子など地元の風景が描かれ、印象的である。
最大の特徴は、足元湧出泉であること。湯底の石のすきまから、こんこんと源泉が湧き出ている。とろりとした透明湯は、ほんのりとゆで卵臭を放ち、ぬるぬるとした肌触り。源泉は49℃。かなり熱めだが、泉質がよいからか、慣れると極上の心地よさである。



























