日用雑貨卸のPALTACは加工食品卸売業の三菱食品と並んでこの数十年間の我が国の卸物流のスタンダードとなってきた企業である。図は同社のこの18年年間の経常利益推移を示したものである。この間、同社の経常利益は4.4倍となった。これは年率8.3%の成長となる。なお、同社は2005年に一旦、医薬卸のメディセオの完全子会社となっている。その後、2010年に再び上場している。
同社の最大の強みは何と言ってもロジスティクスコストの低さである。かつて、我が国では卸不要論が叫ばれた時代があった。卸売業はメーカーの製造した製品を小売業に届ける業務であり、何ら付加価値を生んでいないという誤解から生じたものであった。当時、米国では我が国のようなトラディッショナルな卸売業は姿を消し、メーカーと小売業が直接取引する形態が主流をなしていたためである。
しかし、我が国では実はこの30年間で卸売業はますます存在感を高めているのである。日米のこの差は、小分け物流の必要性の差である。メーカーから小売業への物流が段ボール、つまりケース単位で完結する米国においては、卸売業という存在は姿を消した。しかし、米国のように広範囲の商圏をカバーする大規模小売業中心の流通構造であればケース単位の物流が標準であっても、日本のように中小規模の小売店が高密度に存在するケースでは、末端の物流がケース単位ではなく、ピース単位、ボール単位(10個程度のセット)が中心となる。
店舗への配送がケース単位であればメーカーでも対応が可能であるが、ピース単位、ボール単位ではケースから必要分をピックアップするコストがかかるため、メーカーでは対応不可能で、小売業が自ら行うか、卸売業が行う必要がある。しかし、この小分け作業の巧拙でコストに大きな差が付いたため、結果的にはコスト競争力で小売業に打ち勝った卸売業がほぼすべてを担うようになった。
卸売業の中でも、日用雑貨卸の同社と加工食品卸売業の三菱食品がローコスト化で先頭を走る企業であった。もっとも、この10年ほどの人手不足による物流関連人件費の高騰により、多温度帯での対応が必要な加工食品卸売業のコスト競争力はかなり落ちてきた。その結果、現時点ではまさに同社が小売物流のコスト競争で圧倒的優位性を獲得している。
同社のこの30年ほどの高成長の背景はまさにこのロジスティックコストの優位性であった。しかし、同社は現時点で最も低コストでロジスティクスを行える企業であるが、さらにこの十数年のIT技術の発展を取り込むことによって、従来の仕組みを抜本的に変え、人時生産性を従来比で2倍とする物流センターの運営を行えるようになった。これによって、さらに同社の競争優位性は増すものと思われる。
同社ではその新しい仕組みの大型物流センターが2019年11月から稼働し、その償却費や一時費用で前期決算は久々の減益となっているが、今下期にはそれも一巡し、再び高成長路線を突き進む企業となるものと思われる。
有賀の眼
同社は本年8月25日に経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)注目企業2020」に選ばれた。国内上場企業3,700社から35社がDX銘柄として選定され、DX注目企業に21社が選定された。
同社が選定された背景は、サプライチェーン全体の課題である労働人口減少への対応として、AI・ロボット・ITなどの技術と同社の持つ物流ノウハウを融合した新物流モデル確立への取組みが評価されたものである。この新物流モデルは、物流センターの人員生産性向上と同時に、センター内の作業負担軽減やトラックドライバーの長時間労働削減など、働く人の安全や健康にも配慮した仕組みになっており、人手不足の環境下においても安定的かつ効率的な商品供給を実現するものである。
また、9月1日には公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会から「2020年度ロッジスティクス大賞」の「大賞」を受賞した。
受賞背景としては、同社とKyoto Robotics 株式会社が、2社協働で実施した、業界初となる「日用品卸センターの省人化・自動化における知能ピッキングロボットの活用 ~マスタレス・ティーチレスのケースピッキングロボットの開発と導入~」の取組みが評価されたものである。
我が国における過去のロボット化やIT化の浸透状況を考えた場合、まずは工場のロボット化が進み、次に事務作業のIT化が進み、さらにIT技術、ロボット技術が進化したことでようやく中間流通や小売業、ホテル、外食などのサービス業の領域においてもDX革命が急速に進み始めたと言えよう。その意味では、同社こそまさに今進行しているIT進化の恩恵を最も受ける企業の1社という位置づけになろう。