最近、筆者は北京市亦荘技術開発区を再び訪問し、無人タクシーを体験した。本稿は、この実体験をベースに中国自動運転の百花繚乱の実態を検証する。
●北京市亦荘開発区で無人タクシーを体験
2023年11月、筆者は中国通信機器最大手・華為(ファーウェイ)の5Gスマホ用半導体の委託製造先である中芯国際集成電路(SMIC)及びディスプレイパネルのサプライヤー・京東方科技集団(BOE)に取材するため、北京市の東南郊外にある亦荘経済技術開発区を訪れた。今回の訪問は2年ぶりで、目的は無人タクシーの試乗だ。
北京市亦荘開発区は、2021年に全国初の自動運転サービス商業化試験エリアとして市政府に許可された。現在、百度Apollo、小馬智行(Pony・ai)、滴滴出行、文遠知行(WeRide)などの企業が無人タクシーの試験運行を行っている。
【写真説明】筆者が利用した小馬智行(Pony・ai)の無人タクシー。
4月22日、筆者がタクシーで北京市中心部から出発し、約20分で目的地の亦荘開発区に到着した。同行する娘は、スマホで小馬智行(Pony AI)アブリをダウンロードし、目的地のバス停名を入力して無人タクシーを予約した。
約10分後に、小馬智行の無人タクシーが到着。娘がスマホ操作でドアを開け、我々が後の座席に着席すると、無人タクシーが動き出し、目的地に向かって走行を始めた。無人タクシーは前後左右の車や自転車及び歩行者の動きを自動的に識別し、一定のスピードを保ちながら走行している。
【写真説明】無人タクシーを試乗した筆者。
車内空間が割にゆったりとしている。運転席と助手席の間に大きな液晶パネルが設置され、目的地や走行距離、残り走行時間などが表示され、前方の道路事情も一目瞭然だ。
走行17分後に目的地に到着。停車後にドアが自動的に開き、我々は無人タクシーから下車した。延べ走行距離7キロ、料金が人民元10.7元(約246円)で、普通タクシー料金より約40%安い。
個人の体験として、無人タクシーに視界良好、安全運転、安い料金などメリットがある。一方、指定された場所しか乗車・下車できず、拾うには結構時間がかかり、走行スピードも遅いなど不便のところも少なくない。普通タクシーのように人間社会に浸透するにはなお時間がかかりそうだ。
【写真説明】運転席と助手席の間に設置された液晶パネル。前方道路事情が一目瞭然。
●百花繚乱を示す中国の自動運転
現在、亦荘開発区の街を走っている無人タクシーは、小馬智行など4社合計で100台超。一日の平均注文回数が1台に15~20回で、赤字状態が続いている。
しかし、黒字化を実現した都市も出始めている。例えば、広州と深圳だ。2025年11月に、小馬智行の広州無人タクシー「Robotaxi」が初めて黒字化を実現した。3か月後の26年2月に、同社の深圳無人タクシーも赤字から脱却し、黒字に転じた。同社の深圳無人タクシーは、平均受注回数が一日23回、売上金額が338元(約7,770円)。運行コストも大幅に削減した結果、黒字化が実現されたのだ。
2025年現在、小馬智行は無人タクシー、無人トラックを含む自動運転の車両1159台を保有し、北京、上海、広州、深圳など国内4都市で商業化運行を行っている。海外ではアラブ首長国連合(UAE)のドバイ、韓国のソウル、欧州のルクセンブルクでテスト運行を行っている。同社は2024年11月に米ナスダックに、26年2月に香港株式市場にそれぞれ上場を果たした。
小馬智行のような自動運転を専門とするテック企業は、中国では数十社ある。例えば、文遠知行(WeRide)。この企業は2017年に設立、本社は中国の広州市にある。2024年10月にナスダックに、翌年11月に香港に上場を果たし、無人タクシー、無人バス、無人トラックなど自動運転車両1023台(2025年末時点)を保有する有数の自動運転分野のテック企業だ。現在、文遠知行は中国を含む8カ国の自動運転許可証を持ち、12ヵ国40都市で自動運転の研究開発や試験運行及び商業化運行を行っている。
今年3月31日、文遠知行と米配車アブリ大手のUberが、UAEのドバイで無人タクシーRobotaxiの商業化運行を開始すると共同で発表した。これによって、文遠知行はUberプラットフォームで無人タクシーサービスを提供する米国以外の唯一の外国企業となった。
文遠知行の発表によれば、現在、中東地域で運行している無人タクシーは200台超だが、2030年まで10000台を突破する見通しだ。
中国自動運転分野の先駆けと言えば、中国テック企業の代表格BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の一角を占める百度(バイドゥ)ほかならない。
バイドゥは2013年から自動運転に関する研究・開発を開始。現在、バイドゥの無人タクシーが北京、上海、武漢、重慶、深圳などで商業化運行を行っている。2026年2月まで、世界26都市で無人タクシーの運行や試験運行を実施し、延べ走行キロ数は1.9億キロを超え、世界最大の無人運転サービス提供会社と言われる。
上記3社以外に、華為(ファーウェイ)などのテック企業、BYDや吉利など自動車メーカーも自動運転に参入し、百花繚乱を示している。
●安全性、利便性及び雇用確保の課題
中国の自動運転は大きな進展を遂げた一方、多くの課題も抱えている。
最大の課題は安全性の確保だ。例えば、衝突事故をどう回避するか?交通事故が発生した場合、車内の乗客をどう救うか? 交通渋滞にどう対応するか? 高速道路の安全運転をどう確保するか? これらの安全性の課題を解決しない限り、自動運転は有人運転のように人間社会に浸透することが難しい。
次に利便性の課題だ。前述したように、無人タクシーの乗車場所は制限され、普通タクシーのように路上拾うことができない。利用客にとっては不便が明らかだ。利便性をどう解決するかが自動運転の避けては通らない課題となる。
将来、たとえ安全性と利便性の課題を解決し、無人タクシーが普通タクシーのように普及した場合、雇用確保の課題が新たに浮き彫りになる。働き手に変わる自動運転の普及は、ある意味では運転手の失業を意味する。失業対策はどこの国でも頭が痛い問題だ。技術の進歩と雇用の確保をどう両立するか?政府の対応が問われる。
現在、中国政府は自動運転に関する法整備の作業を進め、新たな国家基準を作る段階にある。前述した課題に政府としてどう対応するかが注目される。(了)



















