全国各地を仕事でめぐっていると、実力派の伝統的産品を製造している職人さんが奮闘している姿にしばしば出会います。金属加工、漆器製造、織物の生産など、挙げていくとさまざまあります。
そうした職人さんたちの悩みのひとつに、現代のライフスタイルにこのような産品をどう根づかせるかという点があるかと感じています。社会環境が大きく変化するなかで、どのような方策があるのか、職人さんたちは懸命に考えているのです。
かなり難しい課題であると思います。そうした状況下で、第三者がⅡ伝統的産品に光を当てて、その価値を伝え、21世紀の生活環境のなかへ見事に溶け込まれるという事例もみられます。

この写真をご覧ください。スツールとしても使え、本体内に物を収められる大きさである箱型の商品ですが、これは何か。
茶箱なんです。茶箱というのは、明治期には茶の保管や運搬に用いられていた存在ですね。本体は杉材でつくられているものが多いと聞きます。で、内部にはトタンが張られています。茶葉を湿気から守るための工夫です。
茶箱はごく小さなものから、1人では持ち上げられないような大きなものまで多種多彩なサイズがあるそうなのですが、現代では茶の流通に感じては軽量で取り回しのしやすいアルミ袋が主流となり、茶箱の役割はほぼ終わってしまったそうです。こればかりは時代の変化ですから致し方ない側面があります。
話はここからです。1人の女性が、今から30年ほど前、日本で暮らしている米国人の家庭を訪れたとき、とても興味をそそられるインテリアアイテムを目にしたといいます。布で装飾を施した四角い箱で、これはなんだろうと…。尋ねてみると「日本の茶箱だよ」と米国人から返答があったそうです。米国人のあいだで、茶箱をクラフトワークに生かして、こうしてインテリアとして楽しんでいるという、思わぬ話だったのでした。
女性は驚きます。廃れかけていた存在であったはずの茶箱がこんな輝きを放っているという事実に、でした。茶箱のことを調べ、女性はみずから、茶箱を使ったクラフトワークの教室を開くことを決意します。東京に本拠のあるインテリア茶箱クラブの立ち上げです。

「日本人も知らなかった茶箱の可能性をみました」と、この女性、つまりインテリア茶箱クラブの代表はいいます。茶箱にこうした使途があったわけですからね。代表はクラフトワークの教室運営に携わって、その魅力を伝えていきましたが、そのうち「きれいに装飾された完成品が欲しい」との声が多く届くようになりました。
代表は、静岡県に茶箱を製作し続けている職人さんがいるとの情報を掴み、その職人さんと連携する形で、装飾を施した茶箱の商品化を決断します。
インテリア茶箱クラブのウェブサイトでは現在、いろいろな茶箱を販売しています。茶箱本体そのものだけでしたら1万円を切るものからラインナップを揃えていますし、美しい布で飾られたものですと小さなものであれば3万円台からあります。写真の商品は20万9000円と立派な値段ですが、それ相応の質感を誇っています。
代表はいいます。「茶箱は最強の保存箱です」。ああ確かに…。そもそもが防湿性に長けている箱なのですから、大事な物を収めておくのにいいわけです。聞くと、結婚披露宴で大きな茶箱の蓋部分をウェルカムボードのように仕立てて、新居ではこの中に結婚時の思い出の品を保管しておく、といった使い方をする購入者もいるそうです。
代表の取り組みによって、茶箱は21世紀のライフスタイルにも合致する姿となりました。茶箱の職人さんにも大きなやりがいが生まれたはずです。
こうした地道な仕事が実を結び、酒造会社と老舗百貨店との協業にもつながったと聞きました。年代物のウイスキーを収めるための小箱を製作しているそうです。茶箱にウイスキーのボトルを収めて保存するというのは、手にした人にとっても嬉しい話でしょうね。

























