※本コラムは2000年代に井原隆一氏が書き下ろした「不況は会社守成の好機」全41話のコラムを再連載するものです。
南朝の逸話集“世説新語”に“松柏の質は霜を経ていよいよ繁る
(松やこのてがしらの常盤樹は霜を受けても繁る。老いても衰えをみえない)”
また、詩人、劉禹錫(りゅううじゃく)は、“道う(いう)なかれ桑楡(そうゆ)の晩(く)ろうを。
霞となりて尚を大に満つ(もう自分は年寄りなどといいなさるな。山に沈みかけている太陽が空一面に夕焼雲を照らし出すように力はまだ強いのであるから)”
近年よく“おいくつになりましたが”聞かれる。幼い頃良く年を聞かれたが、同じ文句である。
私はいつも“まだ九十五才です”と答える。なにしろ若い頃から毎朝教えをこう先生は若い人で三万才、三千才の先生もいるわけで九十五才の私など卵にも及ばない若さ。もう九十五才の私などとは間違っても口から出ることはない。
また、最近はよく若さの秘訣なるものもきかれる。いつも私の答えは怒らぬこと、敵を外にもつこと、人の長所だけを見ること。歌を唄うことなどをあげているが若い頃から私の実行してきた。
いわば体験済みの事ばかりである。現職を退いた後の私の敵は、庭、畑の雑草。敵もさるもの取っても取っても出てくる。出てこないと自分が失職することになるが。
過失や損失を他人のセイにするから怒りたくなるが、自分のセイにしてしまえば怒らずにすむ。いま私が心配していることが一つある。
それは百流和尚は百才になってあの世から鬼が迎えに来たら、迎えにこなくともよい。こちらから都合を見て出向く。と言って追い返せ、といっているが、私もあと五年で百才。こちらから出向くだけの余裕ができるかどうか。それが心配の種になっている。
幾人かの先輩から“当行に井原という男がいることを知ったのは金融整備法”という難関を突破した時だったと。
※栗山英樹氏から、本コラム井原隆一氏の「人の用い方」書籍と、井原隆一「人の用い方セミナー」収録講演CD版・デジタル版を推薦いただきました!
監督の仕事は、選手の心を動かし、勝利の高みに導くことです。人をいかに用いて、信頼感を高めるか―――
その答えを求めて、私は井原さんの「人の用い方」のCDを5年間、毎日球場までの往復2時間、車の中で聴き、本をカバンに忍ばせていました。選手は勝利のために厳しい練習をしているわけですから、私は素振りの代わりが勉強だと思っています。