コロナ禍はフォローになった業界があったものの、多くの業界にとっては未曽有のアゲインストとなった。コロナがアゲインストとなった業界に属する企業にとっては、生き残るために利益をねん出する守りの経営とコロナ後を見据えた攻めの経営とのバランスをいかにとるかは重要な課題となった。
そのような状況下において、長年の赤字経営からようやく脱却し、全く新しいビジネスモデルを構築しつつ、黒字定着化の途上にあったメガネスーパーを運営するビジョナリーホールディングスにとって、コロナの蔓延に対する経営の方向性の決定は、まさに企業の存亡をかけた挑戦となった。
メガネ業界にとって、コロナ禍は強烈なアゲインストの風であった。これはメガネが必ずしも絶対的な緊急重要度の高い商品ではなく、購入自体が先延ばしできる性格であることによる。そのため、コロナの感染者数が拡大すると来店客数が急減し、一方で感染者数が減少しても直ちに客数が増えるわけでもないためである。
そのため、コロナ禍においてはそれ以前に健全経営を行っていた会社でも大きなダメージを受けたが、経営の立て直し途上にあった同社にとっては、まさに企業の存亡をかけた経営を行わなければならない事態に直面することとなった。
現実問題として、2020年2月まではプラスで推移していた既存店売上高は、3月6.6%減、4月17.7%減、5月17.7%減と急ブレーキがかかった。そのため、同社ではコロナの初動段階で、矢継ぎ早にコロナ対応の対策を打ち出した。4月決算の同社では、コロナの走りの2020年4月期第4四半期(2020年2-4月)には、8店舗の閉鎖を行うと同時に、4店舗の出店を行っている。
それに加えて、コロナ禍による固定資産の減損の計上、またコロナとの共生を踏まえて、次期において店舗の移転、閉店52店舗の実施決定を行ったことに伴って、店舗閉鎖損失を前倒しで計上したことなどから特損が膨らみ、純利益は12億円弱の赤字となった。これらを1-2カ月の間に決定して、素早く次期において既存店売上が低迷しても黒字を成し遂げられる体制を整えたのである。
その結果、2021年4月期の第3四半期までの累計営業利益は576百万円と過去最高益並みの利益を達成した。ただし、コロナ下でも収益確保の手ごたえを感じたと同時に、次のステップとしては目先の利益よりも投資にスタンスを移した。まずは、コロナ下で伸びが期待されるコンタクトレンズの通販の初回割引などの販促強化を行った。さらに、来店を促すためのTVCMの増加、非効率な小型店舗を集約して大型店舗化し、他社にない高精度な目の検査ができる高額な装置の導入などである。
その結果、2021年4月期第4四半期、2022年4月期第1四半期で合計672百万円の営業赤字を計上した。そして、その後は一転、再び収益確保戦略に突入する。その結果、2022年4月期第2四半期から2023年4月期第1四半期までの各期は黒字を確保し、1年間の合計営業利益は506百万円となった。
このように、コロナ下の2年半の間、四半期ごとには思い切って、投資期、収益捻出期と使い分けつつ、より筋肉質な経営体質の構築も行っている。コロナ前の2020年1月末と2022年7月末の2年半を比較すると、明らかに経営体質は強化されている。店舗数は373から316と57店舗の減少となった。一方で、同社では次世代型店舗と位置付ける大型で高精度な検査装置を備えたグレードの高い店舗数は、88店舗から171店舗と急拡大している。全店舗に占める次世代型店舗の構成比は23.6%から54.1%と大きく増えた。
大型の次世代型店舗は古い小型店舗と比較して人員効率も大幅に改善するため、この間、従業員数も大幅に減少している。ただし、社員数は新卒が入社する時期が4月であることから季節性が強く出るため、2019年7月と2022年7月を比較すると、1,818名から1,564名と14%の減少となっている。この間、全社売上はほぼ変わらないことから、いかに筋肉質な経営体制になったかが理解できよう。
有賀の眼
同社のよう四半期ごとに戦略を変え、明らかに収益期と投資期を分けるという考え方は、シンプル故、社員にも理解しやすいのではないかとも思われる。もちろん、このようなドラスチックな経営政略もコロナ下という未曽有の状況だからこそできたとも言えよう。しかし、それだからこそこの混乱期にそういった大胆な経営戦略を次々と打ち出せたか、打ち出せなかったかで先々に大きな差が出るような気がするのである。