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第46回
急増する《訪日ムスリム観光客》に注目!
~世界人口の1/4を占める「ハラール市場」の可能性~

次の売れ筋をつかむ術

 
 
 
海外から日本を訪れるインバウンド観光客が年々増加し、円安と入国査証の緩和が追い風となり、
2014年は年間1200万人を突破する勢いだ。
 
その外国人観光客の中でも、近年、「ムスリム(イスラム教徒)観光客」が急増し、
宿泊・飲食・物販をはじめ日本の観光産業における重要性が急速に拡大している。
 
昨今、空港や観光地で、敬虔なイスラム教徒のあかしである、
ヒジャブ(スカーフ)を顔に巻いた女性を見かけることも珍しくなくなった。
 
生産年齢人口が増大し、経済成長著しい、この巨大市場にアプローチすべき時代が到来した!
 
禁断のベールが、今、まさに上がろうとしている。

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◆世界人口の4人に1人はムスリムで、その7割がアジアにいる!
 
イスラム教徒のことをムスリム(神に帰依する者)と呼ぶが、世界のムスリム人口は16億人を超え、
世界人口69億人の約23%、およそ4分の1に当たる。
 
さらに増加傾向にあり、そのペースは速い。2000年に13億人だったのが、2008年に16億人を突破。
2025年には約20億人に達すると推定される。

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2030年には、世界人口の4人に1人にまで増加し、カソリックとプロテスタントを足した
クリスチャン(キリスト教徒)の総数を超えて、世界最大の宗教となる見通しだ。
 
石油資源を持たない日本がエネルギーをほぼ全面的に依存している中近東の国々の
オイルマネーのパワーは、ドバイやカタールの発展ぶりを見ればよくわかる。
 
しかし、実はイスラム教の信者の7割はアジアに住んでおり、急速に増えているのは
東南アジアや南アジアのムスリムだ。
 
アジアにおけるムスリムは、東南アジアに2億4,239万人(ムスリム人口の14.9%)、
南アジアに5億2,440万人(32.3%)、西アジアに2億7,714万人(17.1%)いる。
 
これに中国や日本などの東アジアを加えたアジア全体のムスリム人口は10億6,883万人で、
世界のムスリム人口の65.9%を占めている。
 
国別ムスリム人口では、世界最大のイスラム国であるインドネシアの2億人が最大で、
パキスタンの1.8億人、インドの1.6億人、バングラデシュの1.5億人がこれに続く。

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出生率と経済成長率の高いASEAN(東南アジア)の国々にもムスリムは多く、
国の人口の9割をムスリム人口が占める前述のインドネシア、
イスラム教を国教とするマレーシアの2000万人を筆頭に、ミャンマーに1800万人、
フィリピンに500万人、シンガポールに76万人、タイに40万人のムスリムがいる。 
 
◆年30%以上増加しているインドネシア・マレーシアの訪日ムスリム観光客
 
東南アジア(タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・ベトナム)からの
訪日旅行客は着実に増加しており、2013年には過去最高を記録した。
 
その中で、ムスリム人口の多いインドネシアやマレーシアは、
2010年以降、毎年GDP経済成長率が5~7%増で推移し、
訪日するビジネスマンが増えるとともに、日本に旅行できる所得水準の家庭も増加している。

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日本政府観光局(JNTO)によると、
2013年の訪日者数はインドネシアが約13万6800人で前年比34%の増加、
マレーシアが約17万6500人で35%の増加と高い伸びを示している。
 
また、2014年3月~7月の消費税の免税金額も、インドネシアが前年比65.8.%増、
マレーシアが28.9%増と購買力もますます高まっている。
 
エア・アジアなど東南アジア諸国と日本を結ぶLCC(格安航空会社)による直行便の増便の効果に加えて、
2013年に日本政府が打ち出した訪日ビザ緩和策も功を奏している。
 
今後、両国をはじめ東南アジア各国と日本の経済的つながりはさらに深まっていくことは間違いなく、
アジアのムスリム観光客は右肩上がりで増加する勢いだ。
 
従来、東南アジア諸国におけるイスラム圏は、主に日本企業の生産拠点の一つとして位置づけられて来た。
 
しかし、これからは、拡大するムスリム人口による日本へのインバウンド観光市場、
そして、現地においては成長する巨大な未開発の消費市場として期待されつつあるのだ。
 
◆イスラムの人達は日本が大好きで尊敬している?
 
日本では、イスラム教と言うと、それだけで「怖い」と思う人も少なくない。
 
9・11アメリカ同時多発テロ事件、10人もの日本人が犠牲になったアルジェリア人質事件、
ナイジェリアのボコ・ハラムやISIS(イラク・シリア・イスラム国)による残忍極まりない
事件に関する報道から、まるで、ムスリム(イスラム教徒)=テロリスト予備軍と
疑ってしまう人もいるかも知れない。
 
それらの過激な事件は、イスラム原理主義と呼ばれる、ごくわずかな人達によって引き起こされている。
 
日本にはイスラム教徒が少なく、ムスリムに接触する機会も少ないため、
マスコミからの事件に関する報道によってイメージが作られている部分が大きい。
 
インドネシアやマレーシアにおける犯罪率を見ても、欧米の国々と比べて格段に低く、
ほとんど日本と大差ない、安全・安心で平和な国であることが明らかだ。

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イスラムは、本来、平和的な宗教であり、そういった極端な過激派は、
イスラム本来の教えから大きく逸脱している。
 
「イスラム教は危険な宗教だ」と決め付けるのは偏見に基づく暴論である。
 
ぜひ、現代イスラム研究センターの宮田律理事長による著書
『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』(新潮社)を一読していただきたい。

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ムスリムの私の友人知人のすべてもそうであるが、イスラム世界の多くの人達は日本が大好きで、
歴史的にも文化的にも日本のことを尊敬してやまないのだ。
 
トルコが親日国であることは比較的知られているが、中東のイランもエジプトもサウジアラビアも、
アジアのインドネシアもマレーシアも、イスラムの国々のほとんどすべてで、親日感情は極めて強い。
 
宮田氏は、イスラム教で説かれている「誠実、禁欲、慈悲」といった美徳を
日本人が体現していると見られているのだという。
 
アジアの同胞である平和なムスリムのことを誤解してはならない。
 
今後、ますます人口が増え、豊かさを増すムスリムの人々との関係は、
経済的にも文化的にも政治的にも軍事的にも、さらに重要になる一方だ。
 
私達日本人はあまりにもイスラム世界のことを知らな過ぎる。
 
ビジネスのために訪日ムスリム観光客のニーズ・ウォンツを捉えるためにも、
イスラム教とムスリムに対する正しい知識を身に付ける必要がある。
 
◆聖典クルアーン(コーラン)に定められた『六信五行』

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日本は一木一草に神を見る八百万(やおよろず)の神々の国だ。
 
日本人の多くは、クリスマスをお祝いしたと思ったら、大晦日には仏教徒になって寺で
除夜の鐘をたたき、翌日には神道にのっとって神社で柏手を打つ。
そして、2月にはバレンタインデーでチョコレートをやり取りし、3月にはひな祭りを祝う。
 
そういった感覚からすれば、一神教であるイスラム教を本当の意味で理解することは難しく、
訪日ムスリムも日本に来るのだから、「郷に入れば郷に従え」で日本の慣習に合わせるのが
当然だと思ってしまう。
 
しかし、厳しい戒律があるムスリムは、そうは行かない。それがイスラム教というものなのだ。
 
彼らの戒律は、個人と神との契約であって、人と人の契約ではない。
 
しかし、多くの日本人にとって、彼らが戒律を守らねばならないことは、
会津の藩校「日新館」における「什の掟」にある「ならぬことはならぬものです」と
同じ様なものだと考えるより他ない。
 
聖典クルアーン(コーラン)に定められたイスラム教における最も重要な定めは、
『六信五行』と言われる。
 
六信とは「6つの信仰の基礎」であり、五行とは「5つの行動の基礎」である。
 
六信
  ① アッラー以外には神はいない
  ② アッラーからのすべての啓示・教典を信じ、クルアーン(コーラン)が
    最後の教典である事を信じる
  ③ アッラーからのすべての預言者を認める(モーセ、イエス、ムハンマドなど)
  ④ 天使(マラーイカ)たちがアッラーの命令の下で働きを行うことを信じる
  ⑤ 復活の日、死後の生命を信じる
  ⑥ アッラーの定め(天命)を信じる
 
五行
  ① 念真(シャハーダ):
       「アッラーの他には神はなし。ムハンマドはアッラーの使徒なり」と唱えて信仰告白をする
  ② 礼拝(サラート):
       1日に5回、キブラ(サウジアラビアのメッカの方向)に向かって礼拝をする
  ③ 喜捨(ザカート):
       貧者に対する施しをする。
       昔、ザカートは宗教税で物品に応じて細かく税率が定められていた
  ④ 断食(サウム):
       イスラム暦の九月(ラマダーン)には、夜明けから日没まで飲食をしない
  ⑤ 巡礼(ハッジ):
     一生に一度はメッカ巡礼を果たす。

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◆空港・駅・ホテル・商業施設に「礼拝室」設置はもはや常識
 
ムスリムは、1日に5回、キブラ(サウジアラビアのメッカの方向)に向かって
礼拝(サラート)をする。
 
各礼拝の大体の時間帯は、1回目は夜明け、2回目は夜明け以降、3回目は
影が自分の身長と同じになるまで(お昼)、4回目は日没から日がなくなるまで、最後は夜である。
 
ところが、日本人にはまったくなかった習慣なので、立ち寄る施設も、旅行会社が立てるスケジュールも、
今までほとんど考慮できていなかった。
 
しかし、近年、日本でも、主要な空港やホテル、商業施設では、祈りのための礼拝室(祈祷室)を
設けることが新たな常識となりつつある。
 
2013年7月には、関西国際空港が、イスラム圏からの集客のために、
一般エリアと国際線の出国エリアの3か所に24時間利用可能な、男女別室の礼拝室を設置した。
 
同年8月には、外国人観光客も数多く訪れるプレミアム・アウトレット御殿場が、
そして、12月には千葉県の成田国際空港と日本最大級のSCイオンモール幕張新都心で設けられた。
 
国からイスラム教徒の観光客を受け入れる戦略拠点地域に指定された横浜市では、
外食レストラン経営のコロワイドが市と提携し、2014年7月から、市内5店舗にムスリム用の礼拝マットと
コンパスと空き個室を礼拝スペースとして貸し出すサービスを始めた。

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中部国際空港(セントレア)では、2014年10月から、礼拝室の設置のみならず、
隣接する男女のトイレ内に「ウドゥー」(礼拝前の手や口のお清め)ができる設備を造った。

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JRグループではJR西日本が初めて、私鉄では南海電鉄が初めて、2014年秋から主要駅ターミナルに
設置している。
 
百貨店では、2014年9月、新宿高島屋が初めて店内に手足を洗う水場も備えた礼拝室を設けた。
それに合わせて、ヒジャブ(ムスリムの女性用スカーフ)や
礼拝用グッズ(方位磁石付きの時計、礼拝用マットなど)の販売もスタートした。
 
一方、ホテル日航関西空港では、インドネシアやマレーシアをはじめムスリム人口や観光客が多い国では
当たり前となっている、キブラを示すシールを全客室に貼っている。

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当然、施設にとってはスペースや設置にかかる投資をはじめ大きなコストがかかるが、
関西空港自体が日本の空港の中で先駆けてムスリムフレンドリーな空港を目指していることも手伝い、
このホテルでは2013年のイスラム圏からの宿泊客が前年の3倍にもなった。
 
◆世界60兆円の「ハラール市場」をつかむ術
 
古今東西を問わず、旅の最大の楽しみは「食」に違いない。しかし、ムスリムのための食は
基本的にすべて「ハラール認証」されていなければならない。
 
「ハラール」とは、クルアーン(コーラン)を聖典とするシャリーア(イスラム法)において、
「合法である」「許可された」という意味である。
 
対する「ハラーム」は「不法である」「禁止された」という意味で、
「ハラール」か「ハラーム」かを決めるのはアッラーのみであるとされている。
 
「ハラール」とも「ハラーム」とも言い難い疑わしいものは「シュブハ」とされ、
これらも避けるべきものだ。
 
シャリーアは、信仰と生活を区別することなく、人の営みのすべてに関わるルールを定めている。
「ハラール」「ハラーム」は、食事はもちろん、結婚、離婚、遺産相続、身だしなみ、金融など
あらゆることに適用される。
 
シャリーアで口にすることを禁止されている禁忌(タブー)は以下のものだ。

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  ・豚肉/犬肉
  ・血液
  ・シャリーアに則った正しい食肉処理方法以外の原因で死んだ動物の肉
  ・カマール(酒)
  ・アルコール
 
食事で特に注意すべきことは、
豚や豚由来の成分(豚の身や骨でダシをとったスープ、ゼラチン、コラーゲン、ソーセージ用の豚腸など)、
アルコールやアルコールの成分、血液が、見た目にはまったくわからずとも、1かけら、1滴でも
含まれていれば、「ハラール」とは言えないのだ。アルコールで消毒することも許されない。
 
ムスリムにとって、「ハラール食品」のみを口にすることは神の教えに忠実に従うことであり、
すなわち、信仰そのものである。
 
そこには合理的な理由もあるのに違いない。
例えば、豚肉はイスラム教が生まれた中東の気候風土では腐敗しやすかったり、
アルコールが人の言動を狂わせることは明白だ。
 
それゆえ、「ハラール製品」の安全性は、イスラム教徒に限らず非イスラム教徒にも評価されている。
ヨーロッパでは、健康志向の高まりや飲酒運転を防ぐために、
「ハラール認証」を受けた美味しいノンアルコールのビールやワインの人気が高い。
 
しかし、成分に豚やアルコールがまったく含まれていない食品であれば良いかと言えば、
それだけでは足りない。
 
ムスリムによって所定の方法で処理され、専門の認証機関によって「ハラール認証」を得られて初めて
「ハラール食品」だと受け入れられる。

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「ハラール認証」の基準や認証マークは、国や地域や民族によって若干の違いがある。
中でも世界的に最も広く認められているのが、
国家として全世界のイスラム圏における「ハラール・ハブ」を目指している
マレーシアのJAKIM(マレーシアイスラム開発庁)による認証だ。
 
マレーシアの認証機関は、日本では、日本ムスリム協会、日本ハラール協会を海外認証機関として
正式に認定している。
 
ホテルやレストラン、食材メーカー、各地の農協に至るまで様々な企業が、
訪日ムスリム観光客を取り込むために、認証を進めている。
 
また、「ハラール市場」は食品だけで全世界で約60兆円以上あるとされ、
まずはマレーシアで基準をクリアし、その後、背後に控える巨大市場を狙う欧米企業が多い。
 
日系企業でも、味の素、大正製薬、ポッカ、花王、キューピー、資生堂、日本通運などが、
マレーシアで認証を得て、アジアのムスリムに向けて、商品やサービスの提供を開始している。
 
しかし、成分や製法が基準をクリアしても、認証を得られないこともある。
 
例えば、マヨネーズの大手メーカーのキユーピーの製品は何ら問題はなかったものの、
パッケージに使用しているキユーピー人形が天使のように見えるため、
イスラム教で禁じられている偶像崇拝と誤認される恐れがあるとの指摘を受けた。

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そこで、従来のマークから羽を除いた絵のパッケージに変更して認証を得て、
アジアのムスリム市場において成功を収めている。
 
ますます増える訪日ムスリム観光客によるインバウンド観光市場をも含め、
世界最大のマーケットとなりつつある「ハラーム市場」を見逃す手はない。
 
世界一の誠実さと緻密さ、愚直さを持つ日本人が手掛ける製品やサービスにこそ、
アジアの同胞であるムスリムは微笑んでくれるに違いない。

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