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- 高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』
- 第17回 川湯温泉(北海道)ピリピリが快感になる「強酸性泉」
■100℃近い源泉が湧くレトロな温泉街
温泉の個性を決める要素のひとつに、「pH値」がある。pH7が中性で、それより値が高いとアルカリ性、低いと酸性の傾向が強くなる。
アルカリ性の温泉は、なめらかで肌になじむ入浴感。肌の汚れや古い角質を落として肌をスベスベにする効果がある。だから、一般に「美人の湯」「美肌の湯」と呼ばれる温泉は、アルカリ性であるケースが多い。
一方、pH4未満の酸性の湯はピリピリと肌を刺激するような入浴感。殺菌作用があり、肌を引き締める効果がある。よって皮膚病などに効果が高いとされる。
今回は酸性の名湯・川湯温泉(北海道弟子屈町)を紹介したい。川湯温泉は、十数軒の旅館やホテルが立ち並ぶ温泉街。北海道は土地が広く、観光地としての歴史が浅いためか、登別温泉や定山渓温泉などの一部の温泉地を除き、温泉街らしい町並みは少ない。
しかし、川湯温泉は、神社や土産物屋などもあり、温泉街を散策するのも楽しい。また、温泉街の中心にある川には、高温の温泉が流れており、ところどころで湯煙が上がっている。温泉特有の硫化水素もプーンと香る。温泉の川のほとりにある足湯施設は、観光客でにぎわう憩いの場だ。
■釘も溶けてしまうほどの強酸性
川湯温泉の最大の特徴は、活火山である硫黄山を源とするパンチのきいた湯にある。2.0を割るpH値は、日本トップクラスの強酸性。釘を数日温泉に浸けておくと、針金のように細く溶けてしまうほどである。
うっかり時計や指輪などの貴金属を身につけたまま入浴すると、変色することもある。肌が合わない人は、荒れてしまうこともあるので要注意だ。
多くの旅館やホテルが日帰り入浴を受け付けているが、川湯温泉の強烈な泉質を存分に楽しむには、温泉街唯一の共同浴場がオススメ。
「川湯公衆浴場」は温泉街の中心部に位置する。1958年に地元の人々が出資してつくった共同浴場だ。一般に、地元の人によって管理される共同浴場は、その土地の住民が大事にし、普段のお風呂代わりに使っている。だから、どこの温泉施設よりも、質の高い湯が使われているものだ。
外観はプレハブのようで、地味のひと言に尽きる。温泉街の中でも人通りの多い道路に面しているが、まるでこの建物が存在しないかのように、多くの人は素通りしていく。言葉は悪いが、「廃墟」のような外観なのだ。
■寂れているが湯は極上
浴室内も外観に勝るとも劣らず、鄙びきっている。はっきり言おう。内装はボロボロである。タイルははげてしまい、ボコボコ。足を置く場所を間違えるとゴリゴリとした痛みが走る。酸性の湯の影響だろうか、釘は錆びついている。温泉好きの人でなかったら、やはり「廃墟か」と思うほどの寂れ具合である。
しかし、湯は本物だ。2つ並ぶ湯船の片方に身を沈める。硫化水素臭が鼻を刺激する透明湯は、激しくかけ流しにされている。源泉温度55℃、pH1.6の湯は、強烈なインパクト。かなり熱いうえに、ピリピリ、ヒリヒリとした酸性泉特有の刺激が肌に襲いかかる。湯を舌で舐めるとレモンのような酸っぱさだ。
だが、けっして不快な湯ではない。心身がキリリと引き締まる感じ。湯上がりもサッパリしている。湯が新鮮だからだろう。川湯温泉の源泉は、地下数メートルという浅い地点から湧出しているため、新鮮な状態で湯船に注がれるが、公衆浴場の湯はずば抜けて鮮度が高いように思える。
新鮮な湯を堪能したいと思い、勢いよく頭から湯をかぶってみると、激痛に襲われた。酸性の湯が目に入ると、涙が出るほどに痛い。この痛みも、温泉が本物である証しだ。
なお、川湯温泉以外では、草津温泉や万座温泉(ともに群馬県)、蔵王温泉(山形県)などが代表的な強酸性泉である。温泉に「刺激」を求める人には、おすすめである。