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第3話「三角形のリーダー、矢印のリーダー」

楠木建の「経営知になる考え方」

「求められるリーダー像」は変わったか?

 経営環境の変化に伴い、求められるリーダー像が変化していると言う。しかし、私はそうは思わない。リーダーシップの本質は、今も昔も変わっていないはずだ。リーダーシップが変わったというより、時代背景により、真のリーダーシップが当たり前に求められるようになったというのが本当のところだと思う。

 リーダー像は「三角形のリーダー」と「矢印のリーダー」の2タイプに大別できる。あらゆる企業は、階層的な権限配置の組織構造を形成している。「組織のフラット化」が進んでいると言うが、シリコンバレーの先端企業ですら、権限の階層性があることに違いはない。その中で、より高いポストを求めてキャリアを重ね、やがて三角形の頂点に立つ。その地位にいることが人を動かすパワーの源泉となっているのが、三角形のリーダーだ。

 しかし、真のリーダーは「矢印のリーダー」。自分たちがどんな商売をしてどう稼いでいくのか、戦略ストーリーをつくってそれを周囲に浸透させ、人と組織を動かしていく。向かっていくべき方向性を指し示すのが矢印のリーダーだ。

高度経済成長期という「例外期間」だから成立できた「三角形のリーダー」に縛られるな

 特定の条件を備えた国・地域は、高度経済成長期を経験する。かつての日本がそうだったし、中国はまだその最中にある。20年後はあるアフリカの国が高度成長を謳歌しているかもしれない。経済成長期は、ビジネスにとっては極めて有利な期間であるものの、一方で企業の経営規律を弛緩させてしまう面がある昭和の日本では地位のパワーだけで人を動かす三角形のリーダーでも、経営として成立し得た。

 しかし、すでに日本は高度成長期という例外期間を終え、成熟期に入っている。にもかかわらず、かつての時代の気分を引きずってしまっている人が少なくない。この20~30年、本来の矢印のリーダーシップがずっと求められている。

 リーダーに必要なのは「スキル」ではなく「センス」だ。スキルの積み重ねだけでは矢印のリーダーにはなれない。

たとえ社長でもスキルを磨いているだけでは、 もはや「担当者止まり」。リーダーはスキルよりも「センス」を磨け!

 企業組織とは分業の体系だ。「営業」「経理」「マーケティング」といった機能に分解され、所属する人々がそれぞれ担当した役割を果たす。そこではスキルが求められる。例えば法務の知識や経理処理の実務に長けているといったことだ。

 リーダーの必須要件と思われがちな「プレゼンテーション」や「ロジカルシンキング」。こうした能力は重要ではあるが、あくまでスキルにすぎない。スキルによって自分に与えられた役割をこなしている人は、代表取締役という肩書きがあったとしても、「担当者」にとどまっている。

 逆にどんなに小さな店舗の店長であっても、与えられた役割の範囲をはるかに超えて、商売丸ごと全部の責任を背負って働いているような人、「自分たちは本質的にどんな価値を提供して、どう儲けるべきか」という戦略ストーリーを魅力的に作り上げることができる人、こうした人々は立派なリーダーであり、「経営者」と言ってよい。そのような人財の資質を特徴づけているのは、その人独自の「センス」としか呼べないものだ。

 スキルについては標準的な育成メソッドが確立されているので、正しい方法の選択と努力の投入によって習得できる。しかし、センスを身につける標準化された方法はない。だからリーダーを担える人材はいつでもどこでも希少となる。ただし、「すべてはセンスだ」というとそこで話が終わってしまう。リーダーを育てることはできない。しかし、育つ。結局センスを磨くためには、リーダーとしての実経験や擬似的経験を積み重ねるしかない。

経営者・リーダーとしてのセンスが育つ土壌をつくる「戦略カラオケ」

 スキルについては標準的な育成メソッドが確立されているので、正しい方法の選択と努力の投入によって習得できる。しかし、センスを身につける標準化された方法はない。だからリーダーを担える人材はいつでもどこでも希少となる。

 ただし、「すべてはセンスだ」というとそこで話が終わってしまう。リーダーを育てることはできない。しかし、育つ。結局センスを磨くためには、リーダーとしての実経験や擬似的経験を積み重ねるしかない。

 できることはいろいろある。どんなに小さくてもいいから、リーダーとしての戦略や責任、センスが求められるような仕事の単位をつくって、なるべく早い段階から任せるべきだ。それがすぐにできなければ、疑似的な経営経験を与える場をつくることをおすすめしたい。

 カラオケというサービスが生まれてから、日本人は歌が上手くなったという。人前で歌う機会が増えたからだ。それと同じで、人前で「自分だったら、こうやって稼ぐ」という戦略構想を語る。センスを磨くための、いわば「戦略カラオケ」だ。センスが育つ土壌をつくる。ここに経営の役割がある。

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