賃金管理研究所
チーフコンサルタント 奥 俊晴
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評価の精度は情報量が左右します。一緒に仕事をしたことがない人間を判断しなくてはならない採用評価では尚更です。
そして、情報の中でも採用評価で特に大事なのは応募者の「考え方」です。どんなに抜群の能力を持つ応募者であっても、考え方が自社と合わなければ後々、社内に悪影響を及ぼしかねません。しかし、考え方のような採用する側が本当に知りたい情報は、面接で一通りの質問をしただけでは分からないものです。
こんな話題を取り上げたのは、皆さんの質問の仕方に工夫が欲しい、と感じる機会が多いからです。例えば、賃金セミナーの余談で採用の話題になり、「応募者に前職でどんな仕事をやっていたかを聞く場面で、どんな質問からスタートしますか」と参加者に尋ねることがありますが、多くの方が「以前の仕事内容を具体的に教えてください」と回答されます。
残念ながら、最初から本論に切り込んでしまうと、応募者は緊張したまま想定問答集に沿った回答ばかりで、面接官に気を許してくれません。ですから、まずは当たり障りのない質問から始めてはいかがでしょう。「以前は●●部にお勤めでしたね。何人の部署でしたか?」のような質問から始めて、相手が話しやすい雰囲気を作り、面接する側は聞き上手に徹するのです。このようにすれば、前職の実績や成果、成功に向けたプロセスなど核心に触れる質問をする段階に達する頃には、応募者の緊張も解けて率直な話をしてくれやすくなります。
人間は自分の話を聞いてくれる相手に信頼を寄せやすいものです。また、話し続けていると気分が高まり、心理的なガードも下がってきます。本音を聞き出す面接のポイントは、答えやすい質問からスタートして、応募者の話す時間を出来るだけ長くとることです。過去の経歴や見た目の印象だけで採用してしまい、「採ってはいけない人物を採ってしまった」と後悔しても簡単には解雇できません。面接では履歴書や職務経歴書に書いていない情報をどれだけ拾えるかが、成功のカギを握ります。
なお、判断の精度を高めるもう一つの方法は、必ず複数の人間で面接に臨むことです。採用面接での人物評価はどうしても主観的な判断に頼らざるを得ません。応募者に多くを語らせることに成功しても、面接官が一人では、自分の好みに合う情報だけを拾ってしまい、偏りが生じます。社長一人で面接をして採用した華々しい経歴の人材が、いざ入社してみたら周囲の社員と全く合わなかった、というのはよく耳にする話です。
ですから、面接官には敢えて立場の異なる社員を組み合わせるのも工夫の一つです。例えば、総務部長とトップクラスの営業職の二人を組ませれば、それぞれ違った視点から応募者を判断してくれるでしょう。あるいは、男性社員と女性社員をペアにして面接官とするのも効果的です。