安倍総理が「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言し、「一億総活躍社会」の実現を目的とする、「新三本の矢」を発表してから1年が過ぎました。
(1)希望を生み出す強い経済
「経済の好循環」を継続し、「GDP600兆円」を目指すためには「一億総活躍社会」実現が必要であり、多様な働き方を可能とするためには、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現など労働改革が欠かせない。
(2)夢を紡ぐ子育て支援
子育てに優しい社会、誰もが結婚や出産の希望を叶えることができるような社会を創り「希望出生率1.8」の実現を目指し、少子高齢化の流れに歯止めをかけ、50年後も人口一億人を維持する。
(3)安心につながる社会保障
「介護離職ゼロ」の実現を目指す。介護施設の整備や、介護人材の育成を進め、同時に意欲ある高齢者に多様な就労機会を提供し、「生涯現役社会」を構築し、年金を含めた所得全体の底上げを図り、高齢者世帯の自立を支援する。
以上が新三本の矢の概要ですが、近く65歳に達して勤労生活から引退し始めている団塊世代の人口は各歳180万人程度である一方、新たに働き始める20歳前後の人口は120万人弱と大幅に少なくなっています。希望を生み出す強い経済の実現には就労人口の激減という難題が控えており、日本経済の体力を維持・向上させることの難しさが分かります。
目的どおり「一億総活躍社会」を実現するためには、高齢者や女性が活躍できる環境整備と、妨げとなる多くの障害や規制の撤廃が必要なことは言うまでもありません。
2016年の「働き方改革実現会議」で、安倍総理は「長時間労働が是正されれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性、高齢者も仕事に就きやすくなります。経営者が、どのように働いてもらうかに関心を持つことで、生産性が向上していきます。この働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段です。働き方改革は、社会問題であるだけでなく、経済問題であり、我々は労働参加率を高めねばなりません。そして賃金を上昇させなければ目指す好循環は実現できません」と強く発言。「2017年春闘に向けて少なくとも16年並のベースアップを要請し、一定基準を上回る賃上げを実施した企業には賃上げ総額の10%を法人税の納税額から差し引く制度を活用、これを拡充して中小企業の賃上げ促進に充てる」と決意のほどを明言しています。
しかし9月の日銀の短観の業況判断では、先行きの見通しを含めて「良い」「悪い」と答えた企業の割合は規模に関わりなく減少している一方「さほど良くない」と回答した会社数は過半数以上であり、しかも増加しています。
これから労使の賃金交渉がスタートするのですが、組合側はベア要求作りに悩んでいます。昨年どおりのベア要求となれば2%程の要求となり、大企業でも定額1,000円から1,500円程度のベースアップで妥結することになります。ただし安倍首相の「働き方改革」の趣旨を前向きにとらえる企業が多ければ、昨年以上のベアが実現するかもしれません。2017年の給与改定に向けて本格化する春季労使交渉に注目していきたいと思います。