串カツの田中はこの5年で売上高は10倍となり、経常利益は30倍になるほどの高成長を遂げてきた。
名物「串カツ田中」大阪伝統の味というキャッチフレーズではあるが、実は同社の創業の地は東京都世田谷区である。別の外食店を経営していたのであるが、もはや夜逃げ寸前になって住宅街で始めた串カツ屋が大繁盛し、現在の礎を築いたものである。
店名にある田中さんは現副社長であり、田中さんの親父さんのレシピを用いて開業したのが串カツ田中である。何でも、串カツの味は衣と油とソースの組み合わせで決まるそうであり、これこそがまさに同社の差別化要因となる。
串カツは大阪では極めて一般的なB級グルメであるが、意外と東京ではやや高級な食材である。一方で、一般家庭で串カツといえば、豚肉と玉ねぎを交互に串に刺して揚げた料理のことを指し、NHKのお母さんと一緒の歌の題目にもなるくらいではあるが、それほど一般に普及しているということでもなさそうである。
同社ではこの大阪B級グルメの串カツを世に広めようということで、客単価2,000円半ばの居酒屋を目指している。東京で串カツ屋を探して飲みに行くと、一人5,000円は下らないので、2,000円台半ばならばかなり普及するのではなかろうかと思われる。ちょうど、寿司屋が回転ずしに変わって、市場が爆発的に大きくなったのと似ているようなものであろう。
さて、同社は就職先として不人気な外食店であり、この人手不足時代には社員定着に個々の会社ごとに工夫しないと、なかなか事業拡大もままならないものである。
同社では特に人材育成に力を入れており、串カツ田中アカデミー(KTA)と呼ぶ、全社的な講座を開催している。外食店での教育はおざなりにOJTで行われることも多いが、同社ではOJTとは別に、全社員を対象として、役職に応じた学びの場を提供するため、約30の講座を開設している。
企業理念・ホスピタリティ・部下育成・店舗管理など入社時から店長になるまでに必要な研修を受けることができる。
今の時代は、なかなか企業へのロイヤリティを高めることが難しくなっている。しかし、同社社長の貫氏に言わせると、今の若者はSNSを通じてリア充に対するあこがれがあり、成長を実感させることで、意欲もわいてくるという見方をしている。そのためのアカデミーであるということ。
また、収穫面で同社のような業態は、時々思い出してもらうことが重要であることから、SNSの活用も行っている。一つの手段としてLINEの友達獲得を評価基準に組み入れるなどユニークな制度も導入している。
有賀の眼
大阪のB級グルメの居酒屋でありながら、社員のモチベーションを高める手法で、活気ある店舗を演出できているという点で、とてもユニークではないかと思われる。
一方で、商品、サービス、クリーンネスの徹底を図るため、店舗の覆面調査を月に3回から5回も行うなど、サービスクオリティに対してはシビアな対応も見せている。業態として、食中毒が起こりにくい業態でありながら、衛生検査の回数も年に4回行うなどもその一環である。
実は、世間では完全に失敗に終わったプレミアムフライデーも同社では巧みに取り込んで、プレミアムフライデーには20-30%も売り上げを増やすことに成功している。プレミアムフライデーは政府の肝いりで2017年2月から始まったが、同社では1カ月早い1月に「フライング フライデー」として開始し、マスコミの注目を集めたことで、消費者にも定着させることができたようである。
まさに、B級グルメ店よろしく、人を食ったアイディアで躍進しているのが同社である。