menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

万物流転する世を生き抜く(3) ハンニバル、アルプスを越える

指導者たる者かくあるべし

 第一次ポエニ戦争でローマに破れて西地中海の制海権を失ったカルタゴは、海洋交易国家として存亡の岐路に立っていた。
 
 ローマと再び戦って勝つ以外に生きる道はない。スペインで将軍となりイベリア半島の平定を進めていたハンニバルは、イタリア本土への侵攻を目指した。
 
 敗戦国が講和の制約を破り、再び海外に軍を進めるには名分が必要である。ハンニバルは、スペインの地中海沿いにありローマと同盟関係を結ぶ都市、サグントゥムを包囲し陥落させた。
 
 ローマの反発を見越してのことだ。狙い通りに怒ったローマがカルタゴに宣戦布告したことで戦争に突入する。
 
 紀元前218年5月、29歳のハンニバルは歩兵・騎兵合わせて10万2千の軍と象37頭を率いてスペインを進発。ピレネー山脈を越えてガリア(フランス)を横断し、イタリア国境のアルプスに向かう。
 
 ローマ軍は、大軍を率いてのアルプス越えなど不可能だと高をくくっていた。敵の虚をついたカルタゴ軍は、山中の部族と戦い、雪中の崖に道を切り開きながら進む。
 
 ようやくたどり着いた峠の頂上で疲労困憊する兵たちを前に、ハンニバルは眼下に広がる北イタリアの平原を指差して叱咤激励した。
 
 「さあ、そこはもうイタリアだ。まもなく、お前たちはローマの主人になれるのだ」
 
 二千メートル以上の峠に難路を切り開いてのアルプス越えは15日で成し遂げられた。
 
 スペインを出発して5か月。イタリア側に降り立ったハンニバルの兵は二万の歩兵と六千の騎兵のみ。出発時の四分の一に減っていた。
 
 それでも、近代戦の重戦車とも言える、カルタゴ軍の独自戦力である象は20頭が生き残った。
 
 あまりに大きな犠牲を払ったアルプス越えは無謀とも見える。しかしハンニバルには勝算があった。
 
 北イタリアはいまだローマの版図には組み入れられていない。北への領土拡張を続けるローマとガリア人の抗争が続いていた。そのガリア人たちを味方に引き入れることができれば、山越えで失った戦力は補える。
 
 古代の歴史家たちが書き残した戦記を見れば、ハンニバルという男、決して血気にはやるだけの若者でない。
 
 情報収集を重視し、確かな戦略眼と戦術の巧みさを随所に見せる。組織運用の要諦を心得ていた。
 
 その知将ぶりがこのあと、十五年にわたりローマ軍を翻弄することになる。 (この項、次週へ続く)
 
 
 ※参考文献
 
 『ローマ建国以来の歴史5』リウィウス著  安井萠訳 京都大学学術出版会
 『歴史1』ポリュビオス著 城江良和訳 京都大学学術出版会
 『ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて』長谷川博隆著 講談社学術文庫
 『ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記』塩野七生著 新潮社
 
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万物流転する世を生き抜く(2) ローマ・カルタゴ戦争前のページ

万物流転する世を生き抜く(4) 現地調達による軍運用次のページ

関連記事

  1. 日本的組織管理(6) 人材の癖を活かす

  2. 危機への対処術(32) 本土決戦か終戦か

  3. 逆転の発想(15) 戦いは避けるべきだが戦うなら最善の準備を(山本五十六)

最新の経営コラム

  1. #2 一流の〈相談乗り力〉-相手になりきって聴く-

  2. 第49回 「お客様第一主義」の根本

  3. 第213回 少数株主からの買取請求を阻止せよ!

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 教養

    2014年11月号
  2. マネジメント

    挑戦の決断(25) 藩閥政治の打倒(原 敬)
  3. 経済・株式・資産

    第33話 鄧小平と毛沢東の「戦争」―薄煕来失脚事件研究(5)
  4. 社員教育・営業

    第1話 「人こそすべて、人が企業」
  5. マネジメント

    時代の転換期を先取りする(1) 現実外交の推進(ニクソンとキッシンジャー)
keyboard_arrow_up