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第56回 切明温泉(長野県) 川原で手づくりする「マイ湯船」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■個性的な温泉が点在する秘境

 温泉といえば、ちょうどよい湯加減の湯船につかるものだ。しかし、私たちが普段入っている温泉は、離れた場所(泉源)から湯が引かれ、適温に調整されている。「本物の温泉」の究極形は、湧き出したそのままの湯にその場でつかることだといえるだろう。
 そんな本物の温泉は、「日本の秘境100選」のひとつである秋山郷(新潟県・長野県)にもある。苗場山と鳥甲(とりかぶと)山に挟まれた山深い地域で、日本有数の豪雪地帯。平家の落人伝説も残る。交通の便が悪かったため、近年まで冬季は集落が孤立することもあったとか。
 中津川に沿って延びる国道405号線を車で南下する。道幅は狭く、車1台しか通れない箇所が連続する。「これが本当に国道か?」とツッコミを入れたくなるほどである。その代わり、荒々しい岩壁が連なる山々と透明度の高い川の流れが織りなす絶景は、まさに「秘境」の名にふさわしい。
 秋山郷は、個性的な温泉が点在する「温泉銀座」でもあるが、なかでも秘湯中の秘湯が、最奥に湧く切明(きりあけ)温泉。開湯は1700年頃。江戸時代後期に洪水によって集落が流され、250年あまり後の1972年に村営の宿「雄川閣」が営業を再開したという歴史をもつ。

■川底から湧くアツアツの湯

 雄川閣でも日帰り入浴を楽しめるが、ここまで来たら宿の対岸にある川原まで足を運びたい。大きな石がごろごろと並ぶ川原のいたるところから温泉が湧き出しているのだ。
 雄川閣でスコップを借りて、オリジナルの湯船をつくるのが「川原の湯」の流儀。「立派な湯船をつくってやる!」と意気込んでいたものの、川の中に湯船をつくるには、湯が湧き出している泉源を囲むために大きな石を動かさなければいけない。想像していた以上の重労働に、開始3分ほどで心が折れそうになった。 途方に暮れていると、下流のほうから天の声が! 「お兄さん、1人だと大変だろう。一緒にどうだい?」。東京からやってきたという中年のおじさん3人組は、ちょうど湯船をつくり終えたところだった。ぷくぷくと川底から湧きだす湯を大きめの石で囲った立派な湯船である。10人は入れそうだ。

 「ありがとうございます!」。元気よく返事をし、一緒に浸からせていただくことにした。さっきまでの意気込みは、どこへやら……。

■大人も大はしゃぎ! マイ湯船づくり

 川原に服を脱ぎ捨てて、真っ裸のまま川……いや、温泉に浸かる。聞くところによると、中年3人組は会社の同僚で、みなさん部長クラスの管理職だという。湯船をつくるのに1時間近くかかったそうだ。 ところが、肝心の湯加減はいまいち。源泉は50℃以上あるので、川の水を引き込まなければならないのだが、そのバランスがむずかしい。泉源の近くは激アツで、川の水の引き込み口は、心臓が止まりそうになるくらいの冷たさ。体の一部が熱くて、他の一部が冷たいという状態で、とても湯浴みを楽しむ余裕がない。 大人4人で、適温に調整しようと湯と水を必死にかき混ぜる。中年3人組は、さすが呼吸がぴったりだ。「俺が温泉を攪拌するから、○○さんは水を頼む!」「水が入りすぎだ! 石をもってきて隙間をふさいでくれ」。次々とリーダーから指示が飛ぶ。見事な組織プレーである。中年3人組が働く会社は、きっと業績もよいのだろう。私も「下っ端の臨時社員」として必死でかき混ぜる。 中年3人組のチームワークと行動力のおかげで究極の湯浴みを楽しむことができたが、遠巻きにこちらを見ているカップルが視界に入り、ふと我に返った。「彼らからは、いい大人が素っ裸になって、川の中ではしゃいでいるようにしか見えないのだろうな」と思うと、急に笑いがこみあげてくるのだった。

 

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