以前、賛多弁護士からTOKYO PRO Market(TPM)についての話を聞いた盛田社長がより詳細な説明を聞きに再び賛多弁護士のもとへやってきました(第88回参照)。
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盛田社長:先日はTPMの概要を教えていただき、ありがとうございました。今日はより詳細な内容を教えていただきたいと思い参りました。
賛多弁護士:先日お話したのは事業承継との関係だけでしたからね。では、まずはTPM上場のメリットとデメリットからお話ししましょう。
盛田社長:ありがとうございます。
賛多弁護士:中小企業にとってのTPM上場のメリットは、何よりオーナーがその株式を基本的に売却する必要がないということにあります。これは買収リスクにさらされることがなく、またアクティビストの投資対象にならないことを意味します。また、このような特徴があるとはいえ、TPM上場も東証への上場には変わりはありません。そのため、新入社員等の採用時においては学生等に対して、上場会社というブランドをもってアピールすることが可能です。現在のような人手不足の時代においてこれは非常に大きなメリットだと思います。
盛田社長:確かに今は弊社でも採用がうまくいかず、どうしたものかと悩んでいますので、非常に魅力的ですね。
賛多弁護士:それに現在働いている社員の士気も上がります。TPM上場を目指すとなってから社員の目の色が変わったという話も聞きますし、TPM上場後は親御さんやご家族の会社に対する評価が上がって社員の意識がさらに高まったということも聞いています。
盛田社長:なるほど。採用が有利になるだけでなく、今働いている社員のモチベーションがアップするということであれば、生産性の向上も期待できますね。
賛多弁護士:また、取引関係も有利になります。上場企業と新規取引を行いたいと思った場合、相手から与信審査を受けることになりますが、そのときこちらが上場企業であれば、一定レベルを超えているということが客観的に明らかになるため、非常に有利になるのです。TPM上場前に何度営業にいっても相手にしてもらえなかった会社に対し、TPMに上場したことを伝えたところ、わざわざ取締役が出てきて話を聞いてくれた、ということもあったと聞いています。
盛田社長:弊社も大手企業に営業にいったけれど門前払いにあうということはよくあります。そのような大手企業との間でも取引ができる可能性があるとなると事業展開がかわります。
賛多弁護士:海外展開も有利になります。東京証券取引所の上場会社というのは海外においても強いブランド力を持っています。TPMも東京証券取引所の株式市場の1つですので、そのブランド力を活かして海外展開をするということも十分に考えられます。
盛田社長:海外ですか、これまで考えたこともなかったですが、面白そうですね。見える景色が変わりそうです。
賛多弁護士:それに資金調達も有利になるのです。TPMは株式の流通を前提としていないので増資での資金調達というのはあまり期待できないのですが、上場しているということから金融機関からの借入が以前よりずっと楽になります。上場後はいろいろな金融機関から融資についての働きかけが来て、金利も有利になります。
盛田社長:弊社は、今は資金不足ではないですが、もしTPM上場後に取引先が増えることで取引規模や扱う商品・サービスが増え、そのために新規の設備投資も必要ということになれば、資金調達も必要になりますね。
賛多弁護士:そのとおりです。では、次にデメリットについてお話ししましょう。
盛田社長:TPM上場に踏み切るかどうかの判断においてはデメリットも重要ですので、お願いします。
賛多弁護士:1つはコスト面です。上場しようとする会社の規模にもよりますが、中小企業を前提とすると上場までの費用が2500万円程度、上場後は毎年1500万円程度かかります。
盛田社長:大きくないといえば嘘になりますが、上場で得られる先ほどのメリットを考えれば、おつりがくるような印象です。
賛多弁護士:また、上場する場合には上場に耐えうるだけの内部統制を整え、開示情報を作成する等の新たな事務が発生するため間接部門を拡充する必要もあります。
盛田社長:その点は会社をより良くするという面もあるので、私はそんなにデメリットとは感じません。
賛多弁護士:特に昔からの中小企業にとって重荷となりそうなものとしては、不動産や資金関係の整理があります。
盛田社長:どういうことでしょうか。
賛多弁護士:多くの中小企業は本社や工場の敷地をオーナー社長が持っていたり、会社とオーナー社長との間で金銭の貸し借りをしているようなケースがありますが、これらは上場に当たって、すべて解消する必要があります。
盛田社長:そうなんですか。弊社の本社も敷地については私の所有になっています。また、会社の赤字が続いたときに私が会社に貸し付けたこともあり、それも残っています。
賛多弁護士:そうしますと、敷地については会社との間で売買をする、あるいは、現物出資をする等、貸し付けた金銭については会社から返済を受ける、あるいは免除する等の対応が必要になります。もし御社が種類株式を発行している場合にはそれをなくす必要もあります。
盛田社長:弊社では特殊な株式は発行していないですが、以前、事業承継をする際には黄金株を発行した方が良いと勧められました。
賛多弁護士:それは拒否権付種類株式のことですので、もし発行していたらその株式をなくす手続をとる必要があります。デメリットとして一般的なものはこの程度かと思います。
盛田社長:いろいろと検討することがあるようですね。また、社内でよく検討してから、ご相談させていただきたいと思います。本日はありがとうございました。
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盛田社長と賛多弁護士の会話ではTOKYO PRO Market へ上場する際に把握しておくべきメリットとデメリットが出てきました。しかし、特にデメリットで記載した手続については、会社の事情を把握したうえで、必要なものを洗い出す必要があります。そのため、具体的に検討する際にはJ-AdviserやTPM上場に関する知識をもった弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 町田 覚