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第50講 事例を使ってクレーム対応の間違いと、最善の対応を学ぶ  筆者体験事例(3)

クレーム対応 実践マニュアル

取引企業とのクレーム対応、消費者とのクレーム対応、製品サービス別、メンタルヘルス…「クレーム対応の初期対応法」を学べるCD教材、ダウンロード教材を発刊いたしました。ぜひ、コラムをお読みの方々にご活用いただけましたら嬉しく思います。

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それは、クレーマーではなく子供思いのお父さんだった。浅はかな闘争心をもった自分に自分がゆるせなーい
~悪くない人を悪い人だと決め付けた自分の見る目のなさに、心が折れるときあるよねえ~

(※出典:青春出版社刊『クレーム対応のプロが教える心を疲れさせない技術』)
 

「お電話ありがとうございます。ABC社、お客様相談室小川でございます。」
「お電話ありがとうございますやないよ~!!」と、意地悪トークで中年の男性の大声。
こういう第一声の人は要注意!スムーズに解決しないこと多いから。(そう思うと余計に、緊張する~。)

「はい、詳しくお聞かせいただきますでしょうか?」
「お聞かせいただきますでしょうかやないよ!!今すぐ、社長を謝りに来させなさい!!」
(あちゃ~、また大胆な要求やなあ~)

「あの、私共の商品でなにか失礼なことがございましたでしょうか?」
「商品とちゃう。」
「・・・・・(ほんなら、なに?)」
「商品とちゃうんや!!」
「とおっしゃいますと、なにか・・・・」
「なにかやないよ!」
「・・・・・(わからへ~ん)」
「キャラクターカードや。」
「はい?キャラクターカードがなにか?」
「キングはほんまにあるんか!入れてないんちゃうんか!」
お菓子の1袋にキャラクターカードは、1枚入っていて、全部で12種類のキャラクターがありその中のもっとも人気のカードがキングと言われているカードなのだ。

「はい、キングは数が少ないですが、必ずどのお菓子かには入っておりますが」
「ほんまやな?」
「はい・・・」
「100袋買ってんぞ。その中に1枚も入ってなかったぞ。」
「100袋も買っていただいたんですか。ありがとうございます。」
「100袋分、金返してもらおか。袋は全部、開けたけど、いくつかお菓子も食べたけど、ほとんどお菓子も残ってるし、今ある、100枚のカードはいらんから返すわ」
「はあ・・・・」(どうしよう・・・)
「当たり前やろ!みんな、ここにある。これを渡すから金返すの当たり前やろ!」

「袋は全部、開けられたんですよね?」と恐る恐る再確認。
「そうや。袋開いてたら、あかんいうんか!?」
「あの・・・・」
「もうええ、社長だせ!社長を!!」
「私が対応させていただきますので・・・」
「うるさい!!対応?!ほんなら対応せええや!100袋分、金返せやあ!」

100袋も買ったとはいえ、金額的には10000円ほど。そんなに大きな金額でもないし、お菓子としては問題ないに、なんでいちいち大きな声で言うのかしら。
なんて、ちょっとあきれている気持ちを見抜いたかのようなタイミングで
「金かえすのか、返せんのかどっちやねえ!ええ、どっちやねん!」

(金、金、金ってこの人クレーマー?)
「この、お電話ではなんともお返事をいたしかねます。」
「なんでや!なんでやねん!100袋も買ってんぞ!こっちは客やねんぞ!客の言うとおりにせえへんっちゅのはどういうことや!企業がそれでええんか!えっ、ええんか!」
(うわ~、クレーマーの条件にぴったり当てはまるトーク。絶対クレーマーやこの人。)
「おまえが返事できひんなら、社長に電話代われや!社長やったら返事できるやろ?社長が返事できひんことないわなあ。」

(クレーマーのくせになに言うとんねん!)ちょっと毅然と言ってみた。
「社長でも、私でもお返事は同じでございますので、、、」
「おう、ほんまにそうかどうかオレが確認したる!せやからはよ、社長だせや!」
「いえ・・・」
「おう!社長が出てくるまで、この電話きれへんからな!」
(あちゃ~それは、アカン。)
「私がお返事をさせていただきます」
「お前はもうアカン!社長に代われ。居るんやろ?!」
「私が、改めてお返事をさせていただきますので。」
「せやから、100袋分10500円返してくれっていうてんねん。ここにある、菓子も、カードももう見たない!これ全部、そっちに渡すから金返せ!」

「あの、お買い上げの際のレシートはお持ちですか?」
「あのなあ、このカードは1週間前に買うたんや。誰が1週間も前の、レシート持っとくねん。ええ!」
(出た~!これも代表的なクレーマートーク。やっぱりこの人クレーマーや。なんとかお金を返さないですましたいなあ~。)

「金と、キングのカードを持ってこい!すぐ、持って来い!」
(どうも、話があっち行ったりこっち行ったりするなあ。やっぱりクレーマーやからやな。怒り疲れて切ってくれたらいいのになあ。)

「どんだけあのお菓子、買ってきたと思てんねん!」
(そういって、返金額を増やそうとしてる!どれだけですか?なんて絶対聞いたらへんねん!)
「その100袋買う前にも、100袋買ってんぞ!その間にも、チョコチョコと何回も2袋、3袋とか買ってんねんぞ!」
(ほんまかいな。その時のお菓子やレシートが無くなっているのが当然のことをいいように利用して、どんどん、購入数を増やして、遡って返金を求めるつもりなんや。知らん顔しとかな・・)

「そのたびに、期待を裏切られて・・・・」
「はあ・・・・」
「はあとちゃうわ!一体、いくら使ってきたと思てんのや!」
(そんなにたくさん買い続けてきたんやろか・・ほんまに。それやったら、どうせ、カードをインターネットオークションにでもかけて、儲けようとでも考えてたんやろなあ。)

「とにかくキングのカードを送って来い!」
(あれ?社長は?返金は?すぐ来いは?あれ、ハードルがすごく下がった。)

「お客様、お役に立てなくて心苦しいのですが、ご依頼のカードだけをお送りするご希望をかなえることはさせていただけません。申し訳ございません。」
「なんでや!」
(何でと言われても・・。できひん言うたらできひんねん!)
「申し訳ございません・・・・」と、おざなりに言ってみた。

「俺は別、金が惜しくて言うてんのんとちがうんや!」
(またまた。そんなはずないでしょ?)
「キングのカード待ってる子供に1枚、やったってくれって言うてんのや!」

(ん?どういうこと?子供?どういうこと?)
「あの、子供さんが?」
「そうや。子供がキングのカード、キングのカード言うてうるさいんや。」
(だから、このお父さんは、子供がせがむキングのカードを与えてあげたいと思っていて、しょっちゅうこのお菓子を買っているってこと?)

「それやのに、何回買うても、キング出てきよらへん。そのたびに、ガックリしよるし。そのうちオレが買うやつは、絶対、キングは入ってへんと決め付けるようになってしもて。オレ、立場ないやんけ。ほんで、今日、子供と会えあるから、1週間前から、100袋買うて用意しとったんやんけ。」
(子供と会えるから?・・・・)
「それは、ありがとうございます・・・」
「だいたい、その場で100袋も揃えてる店少ないやろ。せやから、1週間前からいろんな店でコツコツ買って100袋にしたんやんけ。」
(あれえ、ええ人やん。この人。)
「そうです。それはお時間かけていただきましてありがとうございました。それなのに」
「そやのにや!100個のうちの1個もキング入ってない!ほんまは、元から入れてないんちゃうんか!」

この人がクレーマーでないことが色濃くなってきているのに、私の気持ちはどんどん重苦しくなってきていた。私はなんでこの人がクレーマーだと思ったんだろう。なんでそう決め付けてしまったんだろう。後悔が少しづつ澱(おり)となって気持ちを重くしていった。

このお客様の背景は、簡単に会うことが許されない自分の子供がいて、それでも、定期的に会える日があり、その日をこの父子はお互い心待ちにしている。その時には子供が常日頃ほしがっているものを金額にこだわらず与え、そのくったくなく喜ぶ笑顔を抱きしめたいお父さんが、一向に子供が跳ねて喜ぶはずのキングのカードにめぐり合えないじれったさに電話をしてきた。それだけでなく、この父が買ったお菓子にはいつもめあてのカードが入っていないことは、子供にとって不甲斐ない父親に映るのではないかと、高まる不安を企業にぶつけてきたのではないかと序所に想像できるまでに至った。

それと同時に、自分の浅はかな判断と軽率な決めつけに、気持ちが折れていく自分を感じずにはいられなかった。
ごめんなさい。お父さん。ごめんなさい。子供さん。カードを差し上げられなかったことではなく、こんなにいいお父さんを、クレーマーだと決め付けてしまっていたことに、心の中で詫びながら電話を切り、自分で自分が許せるのを秘かに待ち続けた。



表面だけで決め付けると、思いがけない失敗に、自己嫌悪。

粗暴な言葉遣い、やたら大きな声、支離滅裂な説明、つながりのない話、脅しとも思える乱暴な言葉、チラチラする金品の要求などで、この人、クレーマーじゃないの?と決め付けてしまうクレーム対応担当者はたくさんいると思います。昨今は、そんな決まりきったクレーマーの条件に当てはまる人だからと言って、簡単にクレーマーだと決め付けるのはたいへん危険です。

というのも世間の人々は、多かれ少なかれ気持ちの負担になるものを抱えている時代です。仕事のこと、お金のこと、夫婦間のこと、親子間のこと、知人間のこと、上司と部下の関係のこと、健康のこと、手続きのこと、時間のこと、どんなに問題のない生活をしているように見える人にも、その人なりに心に影を落とすことを抱えているのです。
そして普段は露呈しなかった気持ちの負担も、あることがきっかけでたちまちクローズアップされることになる時代なのです。

だから、他人から見れば「それがどうした?そんなに興奮することでもなかろうに。」と思うことも、本人にすれば大問題だということが多いにあるのです。
まして、私たち担当者にとって、その商品は、毎日見ている、毎日話題にしている、毎日触れている、毎日食べている、いささか飽きるくらいの頻度で関わっているものであるけれど、消費者にとっては、たった一つのそれなのです。

また、私たちの場合は、自社商品を個人的に購入して使用するとしても、従業員価格で購入することが多いものです。つまり、その商品の本来の価格で購入することが少ないものですから、少々、個人的に購入した自社商品に不満足な思いをしても、「従業員価格で安かったからしかたないわねえ。」なんて、あきらめの思いがその不満足を隠してしまうのです。

かと言って、自社商品を一般市場価格で購入することは、ちょっと馬鹿らしくてとっても勇気がいります。よく考えれば、私たちは、自社商品をお客様と同じ思いで購入したり、使用したりすることはほとんどできていないのです。
なのに、その商品を買ったお客様の思いをわかっているような気分になっているのは大間違い!
お客様は、たくさんの商品の中から、その商品を購入しようと決断するまでにはお客様なりのたくさんの思いを交差させているのです。たとえ、1つ100円の袋菓子にしたって。

だから、相手が乱暴のもの言いの人であれ、時には怒ってなさそうな有り難いお客様であれ、その商品の購入決断に至ったお話を聞かないと、対応に間違いが怒り、対応に失敗する結果となるのです。

もし、自分が軽率に相手の背景や思いを決め付けることで、対応に失敗をしたりすると自己嫌悪で立ち直れなくなります。毎日クレーム対応をして、1日に何度もお詫びをする立場だとは言え、会社の失敗を詫びることに比べて、自分の失敗を詫びることほど苦しいものはありません。

世間には自分では想像もできないことがたくさんあります。自分では想像もできない人生を歩んでいる人がたくさんいます。自分では想像もできない影を心に落として毎日を営んでいる人がいます。自分では想像もできないほど、自社の商品に深い思いをもっている人がたくさんいます。だから、たくさん電話がかかってくるんですよ。

 

中村友妃子      




※中村友妃子講師のクレーム対応教材「クレーム対応のやり方」シリーズMP3・CD・DVD はこちら

 

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