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第49講 事例を使ってクレーム対応の間違いと、最善の対応を学ぶ  筆者体験事例(2)

クレーム対応 実践マニュアル

取引企業とのクレーム対応、消費者とのクレーム対応、製品サービス別、メンタルヘルス…「クレーム対応の初期対応法」を学べるCD教材、ダウンロード教材を発刊いたしました。ぜひ、コラムをお読みの方々にご活用いただけましたら嬉しく思います。

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お客様のお話のあまりの正しさに、企業のルールが枷となって何の提案もできないので結果、ちっとも説得できない。はっきり言って無理!
~本音はお客様の言うとおりにしたいんだけど、会社としてそれにお応えできる体制がない。ホント、じれったくなるときあるよねえ。~

(※出典:青春出版社刊『クレーム対応のプロが教える心を疲れさせない技術』)
 

「お電話ありがとうございます。ABC社お客様相談室、内野でございます。」

「お宅の会社の衛生管理はどういう形というか、仕組みで行っていますか?」
と、怒声でもなく、苛立ちが見え隠れするヒステリックな感じもなく、性格的に稀有なほど内向的な人でもなさそうな、なんとも言えない、クレームを申し出るお客様にしては違和感のある正面きって堂々と言う感じの男性の声。言うなれば好ましくない話をするアナウンサーのような声。

ただの問い合わせのような気配がする内容だが、その予想ができない声色に、たちまち緊張してしまう。
そこで、自分の力量の気迫さが露呈しないように、「私共の、衛生検査はですね・・・」と、どれだけ、自社はどれだけ衛生に気を配っているか、それはさまざまな検査方法に裏打ちされていることを落ち着き払った口調で説明した。やや長いかもしれない説明の間、このお客様は「はい」とか「ええ」とか言いながら聞き続けていた。その雰囲気にだんだんと、私の不安感は薄れていき、少し、気分も明るくなってきたのだったが、説明が終わった頃に、これまでと同じ調子の声でこう言った。

「そんなに、きちんとしているならこの異物はなぜはいっているんでしょうねえ。」

そのひとことは私を凍らせた。まさに、ヒヤッとした。
いままでお客様は比較的冷静に「はい」とか「ええ」とか言いながら私の話を聞いてくれていたので、どんどん調子にのってどれだけ自社は衛生に意識が高いかを話し続けていた私にとって、穴があったら入りたい!という感情が走った瞬間だった。(調子に乗って言い過ぎた~。)
「あの、お手元のものになにかご不安なことがございましたか」と、時すでに遅しという感じもするが、恐る恐る聞いてみた。

「午前中に買ってきたお宅のケーキのスポンジの中に、毛のようなものが入っているのでお電話したんです。」
相変わらず、普通のテンション。

「せっかくお味をお楽しみいただくはずだったのに、誠に申し訳ございません。」といい終わるや否や、 「そうだよ!いったいどういうことなんだ!どうしてくれるんですか?!」という感情的な声が返ってくるのを、両腕で自分の頭をかばうようなイメージで覚悟した。ところが
「そうですねえ~」と、まったく昂ぶらない声で軽く相づちを打たれ、ますます予想外の方向に。気分は迷路をさまよっている感じがする。(なんで、怒ってないんやろ~)
もちろん怒声やヒステリックな声で叱られたくないけれど、それにしてもその逆というのも、意外にも落ち着かない。(なにか別の目的でももってるのかなあ。)

「さっきから聞いていると、お宅の会社は、とても衛生問題には意識が高くて、さまざまなことに取り組んでいらっしゃるようですから、その点については言うべきことはありません。」
「はあ~、ありがとうございます。(でも、なんかありそう・・・)」
「それほどまでにキチンとされているとは知りませんでした。」
「はあ~、恐れ入ります。(でも、なんかありそう・・)」
「食品会社も今はたいへんですから、うかうかしてられませんよねえ。」
「はあ~、おっしゃるとおりでございます。(なになに?はやく、本音を言って~!!)」
「先ほどの衛生問題に対するさまざまな取り組み実施について、立証できるというか、本当に実施しているということを証明できるものがほしいんですが」
「いやあ~あの、それは・・・」
「なぜですか?きちんとやっているなら、正々堂々とそれを証明することもできるんじゃないですか?!」

お客様のその声は、これまでで、最も、大きな声で、尖りのある言い方だった。
そして、このお客様の言った言葉が道理に合っていることも、自分の対応力に対する自信を喪失させた。
(それにしても、この人、なんなんだろう?同業者?同業者が、ライバル社の取り組みを具体的に知るためなのかしら?でも、うちの会社、そんなにすごいこともやってないから、わざわざこんな小芝居してまで探るほどのことでもないと思うけどなあ。いったい何が目的なのかなあ。)
と、真っ白になりながらも、手探りで突破口への手綱をまさぐる頭の中。このときに打っている感情を音で言えばドキドキよりも、ヒヤヒヤ。
お客様の希望するものを提示すれば解決するかもしれないけれど、実は提示することが着地点ではないことは、クレーム対応の経験が少しある者ならわかる。
だからと言って、それはなにが着地点なのかが理解できているということではないので、なんと言葉をかけるのが正しいのか心は途方にくれるばかり。でも勇気を出して聞いてみる。また、話を戻されるかもしれないけどちょっと話題をかえてみよう。


「あの、恐れ入ります。お手元の商品はどのようになっておりますでしょうか?」
「それは、電話で説明するより見てもらったほうが良くわかると思います。」
「はい。それでは、すぐにでも現品をいただきに参りたいのですが。いかがでしょう?」
「来てもらっていいんですが、現品はお渡ししませんよ。」
「は・・・い。あの、現品をいただかないと、異物らしきものが何であるか、また混入した原因を究明することができませんので。」
「それは、しかるべきところでやってもらおうと思っていますので、お宅の会社でやっていただかなくてけっこうですよ。」
「はあ・・・そうですか・・・・・」
「お宅の会社でやってもらっても、しかるべきところでやってもらっても、結果は同じものが出てくると思いますから、それなら私の信頼できるところでやらせようと思っています。」
「あの、ちなみにお客様の信頼できるしかるべきところとおしゃっるのはどちらでしょうか・・・」
「それはお宅には関係ないでしょう。」
「はあ、そうですね。はは、はは・・・」
「その時に、お宅の会社の衛生への取り組みや衛生検査のサイクルやレベルを証明するものが一緒にあれば、どこに原因があるかも、その私が検査をやらせるところでめぼしが着くだろうと思いますので、いただきたいのです。」

「はあ・・」といいながらその時の私は、(もう、なんのことかわかりませ~ん!どうしたいのかもわかりませ~ん! どうしたらいいのかもわかりませ~ん!)と、投げやりな脳みそになっていた。

お客様のおっしゃることはひとつひとつ、筋が通っていて、合理的で、このお客様の会話の冴えてる感じに小さく拍手を送っている自分の本音が隠しきれなくなる。(もう、どうでもしてくれ~。なんとでもしましょう。)という気持ちが抑えきれない。抵抗したって無駄だと思う自分の気持ちに、次の言葉が見つけられない。

「もしもし、聞いてますか?」
「はい。」
「それで、いつ、取り組みを証明するものを出してくれます?そして、何時頃来ますか?」
「あの、できるだけ早くおじゃまさせていただきたいと思っておりますが、その際に現品を持ち帰らせていただけることをお願いしたいのです。」

でないと営業の者にすぐに行ってもらう意味がない。自社では、とにかく、すぐに原因究明のための現品をいただくことを目的に、営業マンの引き取りシステムを運用している。営業マンは、ひとまず原因の話や、損害に対しての賠償のお約束などは一切しないで、とにかく現品をいただいて帰社するということになっている。
でも、このお客様のお考えにお応えするために訪問するのなら、営業マンでは、担う役割りが違う。かと言って、現品がいただけない以上、誰が訪問しても手ぶらで帰社しなければならず、さらに原因がわからない状態では何も話すこともできず、今、このままの条件で訪問しても一歩も進展しない対応となる。そんなこと、会社がOKを出すはずもなく、ほんとうにどうしたらいいのか、途方にくれながらも、再挑戦してみた。


「あの、できるだけ早くおじゃまさせていただきたいと思っておりますが、その際に現品を持ち帰らせていただけることをお願いしたいのです。」
「それなら、半分は渡しましょう。半分でも検体として条件を満たす量はあるでしょうから。」
(ん?ちょっと、専門家の感じするなあ。)
「はい、ありがとうございます。」
「でも、先ほどお願いしたそちらの取り組みを立証するものを、持参してくださいね。」
「はい、それにつきましは、現品をいただきましたら、中2日いただきますと初回の結果が出ますので、その結果と共にお持ちしようかと思いますが。」
「それもいいですが、こちらが持ち込む検査機関にも、この検体と同時に提示したいものですから。さっき、そう言いましたよねえ。そのほうが、原因の予測もつきやすいのではないかと思うので。これもさっき言いましたよねえ。」
「はあ・・。先ほど来より、そうおっしゃっていますよねえ。」
「そうですよねえ。さっき言いましたよねえ。なにか、僕、おかしいこと言ってますか?」
(うわっ!ちょっと怒らせてしまった。うわっ!怒らんといて・・・)

「むしろ、僕は、お宅の会社のためを思って言っているんですよ!僕の信頼できるところで、検査もし、大まかな原因も見出すことができたら、お宅の会社も助かるんじゃないですか?費用も時間もかからないんですから。でも自分の会社で検査をし原因を調べるというのもけっこうですよ。そうしたときに、僕の方の結果や見解と、お宅の会社の結果と見解が同じなら、迷わずに改善に取り組めていいんじゃないですか!もし、僕のほうと、お宅の会社との見解が違っても、それはどちらがどうなのかをどんどん調べて行き、どんどんつぶせる要因や見解をつぶしていけば、確かな改善策が見つかるということになるんじゃないですか?消費者としても、確かな改善策に取り組んでいただくことが好ましいので、お互いがまずは同じものさしで、検査し、見解を出すことになんの問題も躊躇することもないと思いますけど。」

なんの言葉も出なかった。このお客様のおっしゃっていることはとても前向きだし、言葉だけを信じれば決して、企業を痛めつけることが目的でもなさそうなので、どうして抵抗していいのかまったく見当たらない。
本音や真実はよくわからないけれど、今、確かにわかっていることは、相手の思慮のほうが私より、何倍も上手であるということ。私はこの人には勝てない。個人的な会話力もさることながら、企業のルールという枷がある中で、私がどれだけこのお客様をうならせる提案ができるかというと、なにも見あたらない。
徐々にそう思えてきた自分を認め、まるで向こう岸から白旗を挙げるような勢いで私はこう言った。
「ただ今、上司に代わります。少々お待ちくださいませ。」


すごいお客様が相手のときは、白旗を上げる勇気も。これ大事。

なんとかお客様と理解し合えることはないか、なんとかお客様にわかってもらえる方法はないか、なにかしてあげれることはないかと、思いをめぐらしながら対応をする中で、すぐにでもお客様のところに飛んで行って、手元の現品はどんな姿なのか、お客様の怒りの表情はどの程度なのかを知りたいという思いにかられることはありませんか?

でも、会社のルール上、自分はお客様のところに訪問する立場ではなかったり、お客様のお考えが妥当かどうかを判断してイレギュラーな事案をも対応する立場ではなかったり、さらには、お客様のおっしゃっていることに非のうちどころがなくても、明日からすぐにそのように改善・変更できるとお客様のお約束できるだけの会社での権限もないし、お客様の声がスムーズに製品やサービスに反映できるだけのシステムが会社にないなんていう、状況に阻まれてしまう。
でも、でも、電話を取った限りは、電話の中で解決することを強いられ、それはまるで能力も腕力もない自分が、何の道具も持たずに、相手と向き合っているような状態だと思ってしまう日ありませんか?
その苦しさは実は、自分の責任感の強さや、自尊心の強さだったりするかもしれません。

昨今は、たくさんのお客様が企業にご連絡をして来られます。「近頃、クレーマーが増えたなあ」とか「近頃の消費者の中には、むずかしい人がふえて困ることが多い。」なんて、小さく愚痴を言いたくもなるのが正直なところですが、そもそもはそんなお客様も私たちの顧客としては存在することを当然と思い、その顧客にも理解してもらえるような企業に、商品力や販売力や、対応力を高めていくことに企業の成長があるのです。

ただ、そうは言っても個人的には、自分よりもはるかに専門能力の高いお客様もいるし、理論がしっかりしているお客様もいるし、消費者が考える企業の常識をしっかりと見据えているお客様もいるし、法律や行政のお話に長けている方もいらっしゃいます。実は、そんなお客様は、けっこういいことを言っていますし、企業の垢にまみれてしまった者として、目からうろこが落ちるように素直に納得してしまうお話があったりします。なにしろ、私たちより、奥深くあることを研究し、習得しているのですから、私たちが電話担当者になる前に少し、会社から教わった程度のことなんて、ある側面から見れば赤ん坊の知識のようであったりすることも否めません。世の中は『専門家社会』なのです。ですから、相手が専門家なら手も足も出ない自分を認識し、余計な意地を張ったり、抵抗をしたり、格好つけたりしないで対応したいものです。

でも、正直、自分の責任感や自尊心が、相手の専門家ぶっている仮面をなんとかはがしてやりたいという衝動を芽生えさせることがあります。そして秘かに専門家対決みたいなことをやりたくなる。
そんな中で、自分の責任感と自尊心は自分の心が折れないように応援してくれるけれど、会社ルールの応援はすぐに限界が来るから、たちまち返答に困ってしまうという結果は目に見えているのであまり興奮しないこと。

とは言っても電話に出た限りは、担当者としてできるところまで会社とお客様の両方が良い結果になるように対応しなければいけませんが、「ダメ、お客様のほうが、自分よりすごい!」と思ったら、それ以上、意地張らない、カッコつけない、我を張らない。そのはかなさにお客様は、賞賛を感じ少し優しくなり、そして自分も楽になるという結果があることを信じましょう。
自分よりすごいお客様はこれからもたくさん現れますから。

 

中村友妃子

          

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