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第91話 その町工場はなぜシェアトップか?

北村森の「今月のヒット商品」

2025年に入ってわずか1カ月ほどの間に、私は全国各地のいくつもの町工場を見学・取材する機会に恵まれました。こうして集中して複数の現場の空気を知ると、やはり見えてくるものがありますね。例えば、町工場は何を武器に戦えばいいのかなどのヒントです。

なかでも、つい先日訪れた福井市のサカセ化学工業の取材は、とても印象に刻まれました。

 

何をつくっている会社かといいますと、病院向けのキャビネットやカートです。大事なカルテなどの書類を収めたり、薬などを各病棟に運んだりするのに使う、専用の什器類ですね。

同社はこの分野で国内シェアおよそ70%と聞きます。誰もが知るような大手のキャビネットメーカーを向こうに回して、地方の中小企業がトップシェアなのはどうしてなのか、気になります。

順番にお伝えしましょう。まず、このサカセ化学工業の敷地内には、いくつもの工場棟が立ち並んでいて、同社によると「まさに町工場の集合体のような姿です」とのこと。金属加工、樹脂加工、木材加工…。設備の内容も、またその雰囲気も全く異なる空間がひとつの敷地に共存しているわけです。

なぜ、こんな構成となっているのか。現在の社長が三十数年前に事業を継承した段階では、樹脂加工の下請けが中心だったそうです。しかし、それだけでは会社の未来がおぼつかないと判断し、2つのことを決めたといいます。

まず、下請け主体からの脱却です。もうひとつは、部品を含めて、できうる限り自社での内製化を目指して、まわり回ってコストを抑えられるようにした。

 

内製化を徹底した結果、先ほどお話ししたように、サカセ化学工業の敷地には領域の異なる工場棟が隣り合うように存在する結果となりました。

こうして内製化を図る一方で、キャビネットやカートといった自社ブランドの展開を期していきました。そして営業担当者が全国の病院をめぐると、途中で気づいた事実があった。

それは「病院内のものの流れは、ひとつのパターンでは決してない」「だから、既存のキャビネットやカートをそこに当てはめても、病院側の満足度は言ってみれば60〜70%ほどにとどまり、100%にはなりえない」。

だったらどうするか。ここで同社はひとつのテーマを掲げます。それは「一品特注」というものだったそうです。

個別の病院を訪れるたびに、課題点を掘り起こし、キャビネットやカートの配備を通してその悩みごとを解決するような仕組みを構築していきました。

解決するには当然、ありものの商品を押し込むのでは間に合いません。だから同社は、病院ごとに収めるキャビネットやカートをひとつひとつカスタマイズして製造するという策に出ます。

そんな効率の悪いことを…と私も一瞬感じましたが、ここで同社の持ち味が生きました。「町工場の集合体のような会社ですから、さまざまな部品の内製によって病院ごとの課題を解決する商品をしっかりとつくれる体制がそこにあります」さらには「内製ですから、それを短期間で完成させられるというのもポイントです」。

内製を貫こうとする姿勢が、「一品特注」を果たす後ろ盾になった。そういう話だったのですね。

 

「おそらく、大手のメーカーでは、ここまでの対応はなかなかできないと思います」と同社はいいます。だからこそのトップシェアということでしょう。

ここで改めて思うわけです。効率化というのはしばしば正義のようにも考えられていますが、必ずしもそうとばかりは言い切れない。サカセ化学工業は、あえて効率化とは逆の路線を進み、しかもその判断によって手にした武器をきちんと使い切っている、というところが興味深く感じられます。

 

同社の営業担当者は、各地の病院を訪れた現場で「キャビネットやカートのカタログを見せて『どれにしますか』という尋ね方は決してしない」そうです。

ああ、確かに…。同社にはいちおうカタログは存在しますが、カタログに掲載された商品をそのまま病院に収めるケースというのはほぼないらしい。

サカセ化学工業が売っているのは、キャビネットやカート単体ではなくて、病院内のものの流れに関する悩みどころを解決する方策そのもの、ということですね。

こうした取り組みを続けていると、おのずとノウハウが会社内に蓄積します。その蓄積はきっと競合する大手メーカーのそれをも超える価値あるものであるのに違いありません。

その蓄積が、また同社の次の一手につながっていくのでしょう。

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