投資運用のロボットアドバイザー企業である WealthNaviの戦略紹介、後編。
前編では、日本の個人金融資産の投資運用状況が米国などと比べて消極的で、運用実績が極めて低い事、一方で、雇用環境の変化の中で働く世代の資産形成が大きな課題となって来ている事をご理解いただいたと思う。
このような投資運用後進国とも言える現状にフィンテックを活用して風穴を開けようと奮闘し、急拡大しているのがWealthNavi。
2016年7月にリリース後約5年間で、預り資産は5,000億円を突破。株式時価総額は約1,800億円と日本のフィンテック企業の中ではトップクラスの成長を果たしている。
では、ロボットアドバイザー(ロボアド)とは何なのか?
ロボアドとは、人間に代わってアルゴリズム※によって資産配分の決定から買付け、リバランス、再投資など資産運用を自動で行うサービスである。
米国ではリーマンショックの2008年後から生まれ、既に1兆ドルを超える市場規模に拡大しているが、日本では今まさに黎明期であり、WealthNaviはじめ数社がスタートしている。
(※アルゴリズムとは、ある目的に達するための手順、計算方法、やり方の事。)
ロボアド「WealthNavi」の特徴は?
① 「長期・積立・分散」の資産運用を自動化
世界の富裕層や機関投資家が実践する「長期・積立・分散」の資産運用を、テクノロジーの力で自動化している。
ノーベル賞受賞者が提唱する現代ポートフォリオ理論に基づき、6~7つのETF(上場投資信託)を通じて、世界約50カ国1万1000銘柄に分散投資する。資産配分の決定から発注、積立、リバランス、税金最適化まで自動で行う仕組みである。
② 簡単・便利、使い易い機能
20~50代の働く世代の資産形成ニーズに応えるために、少額から始められ、スマホ、パソコンで簡単に操作できるなど使い易いUI(ユーザーインターフェイス)である。
先ずは5つの質問に答えてリスク許容度を計り、相応しい運用プランが提案されて簡単に始める事が出来る。
運用中はスマホからいつでも資産の状況を確認でき、定期的な積立や追加投資や引き出しも簡単にできる。忙しく働く世代でも、すきま時間で将来に向けた資産運用を手軽に行うことが可能となっている。
③ シンプルな手数料・資産運用アルゴリズムも公開
手数料は預かり資産の1%(税込1.1%)のみ。資産運用アルゴリズムをホワイトペーパーで公開しており、どのような手順で運用しているかを見える化している。
WealthNavi資産運用アルゴリズム
https://www.wealthnavi.com/image/WealthNavi_WhitePaper.pdf
成長の要因
では、WealthNaviが第一人者として成長している要因は何だろう?
安定した運用パフォーマンス
先ずは、しっかりと運用パフォーマンスを上げている実績。
下図は、WealthNaviのサービスを開始した当初(2016年1月19日)に100万円、その翌月から毎月3万円ずつ積み立てながら投資した場合の運用シミュレーションを表している。
リスク許容度によって差はあるが、年率換算5%~9%のパフォーマンスである。
※ WealthNavi IR資料より引用
ターゲットを絞ったマーケティング
働く世代の資産形成ニーズというものに、明確に焦点を絞って事業化している点もWealthNaviの強みだ。
「貯蓄から投資へ」との政策目標もあり、既存の証券会社や銀行は投資運用商品の販売に力を入れてきた。しかしどこもメインターゲットは既に資産をある程度築いている人を対象としており、将来に向けた資産形成ニーズに真正面から向き合うものではなかった。
こうした中で老後に向けた働く世代の資産形成にターゲットを絞ったマーケティングは分かり易く、支持を得られている。
SaaS企業が如き事業展開
WealthNaviは金融商品取引業者であり、証券会社や投資顧問会社と同じ範疇の事業者であるが、ビジネスモデルとしてはインターネットを通してサービスを提供するSaaS企業に近い。
SaaS企業の特徴と言えば、商品を販売したらそれで終わりではなく、少額取引からでも顧客との関係を構築し、テクノロジーをベースにサービスをアップデートさせて行く中で顧客満足度を高めてストックを増やし、サブスクリプション(継続課金)によって安定的な収益を確保する。そして、サービスの認知度を上げるために宣伝広告を積極的に活用する企業も多い。
WealthNaviのビジネスモデルも、投資額は小さくとも手数料は一律1%に設定して顧客の門戸を広げ、顧客満足度を高めて継続させて預り資産を増加させている。従業員の半数をエンジニア・デザイナーが占めて技術開発に注力している事、年間10億円以上かけて広告宣伝で認知度を上げている事などは、正にSaaS企業のモデルであり、これがスマホ世代の支持を集めている。
プラットフォーム化
成長の要因、もう一つは広範な提携だ。
下図は、2021年3月末時点での提携パートナー先リストと預かり資産の推移を表している。
これを見るとメガバンクからネットバンク、ネット証券や事業会社など幅広く提携関係を構築し、それらのルートを通して預かり資産を大きく伸ばしている事が分かる。
銀行や証券からすれば、既存の投資運用商品販売とバッティングする面もあるが、ロボアドという分野ではWealthNaviのサービス、ブランドが優位であると判断して、手を組んでいるのだろう。ある意味、ロボアド分野におけるプラットフォームにWealthNaviがなりつつあると言える。
市場の成長に期待
WealthNaviが提唱している「長期・積立・分散」の手法で世界へ分散投資する事は、世界の成長を取り込み、日本が資産運用後進国から脱却する上で有効である。
そして、働く世代の資産形成をしっかりと進める事は、20年後、30年後の社会の安定にとっても重要で、当事者はもちろん、経営者も真剣に取り組むべき課題ではないだろうか。
米国のロボアド市場は既に1兆ドルを超え、競争は激しく、手数料率0.25%と低いサービスも表れていると聞く。
日本でも、これから市場拡大は続くと見られるが、WealthNaviが先導する中で競合他社も成長し、市場が活性化する事が望まれる。