執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 丸山 純平
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- 第40回 『定年再雇用して「定年」が無くなってしまうリスクって!?』
労働力人口の減少と高齢化社会の進行に伴って、高年齢者がこれまで培った能力や経験を活かして戦力として働いてもらうために定年再雇用制度が整備されました。既に太田社長の会社でも導入していますが、どうも気になることがあるとのことで、今日はその相談で来所されました。
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太田社長:賛多先生、今日もマスクをしたままで失礼します。息苦しいのですが、やむを得ないですね。最近では「withコロナ」といいますが、早く収束して欲しいものです。
賛多弁護士:まったくその通りですね。日々、感染者数について自治体から発表されていますが、発表されることや数について、世間がやや慣れてしまった感じもします。今一度気を引き締めて生活していかなければなりませんね。ところで今日は定年再雇用に関するご相談とのことですが、どうされましたか。
太田社長:はい、今日うかがったのは、定年再雇用している従業員についての相談なのです。先生もご存じの通り、ウチはスマホ向けのアプリ・ゲーム開発などを行うITベンチャーです。経理部門と総務部門に古参の従業員がいます。ウチは他の多くの企業さんと同様、定年は60歳としていますが、ちょうど4年前に1名が定年を迎えたので、現在は、定年再雇用で働いてもらっています。
賛多弁護士:毎月の請求書送付等で対応してくださっている方ですね。
太田社長:はい、そうです。それで彼には期間1年で65歳までの定年再雇用契約とした上で働いてもらっているのですが、先日、契約更新の話をした際に、彼から「65歳になってからも働きたい」と話がありました。もちろん本人はやる気があって健康状態に何ら問題はなく、私も彼にもずっと働いてもらいたいという思いはあります。
賛多弁護士:なるほど。その方の現在の契約書はお持ちですか。
太田社長:はい、コピーを持ってきました。こちらになります。
賛多弁護士:拝見します。(契約書の内容を確認した上で)少し問題がありますね。このままの契約書でその方と65歳を超えて契約すると、無期契約に切り替わってしまう可能性があります。要は定年再雇用したにもかかわらず、改めて定年が無くなってしまうリスクがあるのです。
太田社長:それはどういうことですか。
賛多弁護士:有期雇用契約を結んでいる場合、通算で5年を超えて繰り返し更新された場合に、労働者の申込で無期労働契約に転換されます。今回その方は60歳で会社と定年再雇用契約を締結し、61歳で1回目の更新を行い、62歳で2回目の更新、63歳で3回目の更新、そして先日64歳で4回目の更新となりましたが、来年65歳で5回目の更新となります。すなわち、65歳以降も働いてもらおうとして契約を更新すると、通算で5年を超えて繰り返し更新となるので、その方には無期転換申込権が発生し、申込をされると会社は拒否できないのです。
太田社長:なんと、そうなのですね。たしかに彼には本人が希望すれば今のところ65歳を過ぎても働いてもらいたいですが、今後何があるか分からないですから、無期労働契約になってしまうことは避けたいです。先生、何か方法はありませんでしょうか。
賛多弁護士:はい。定年再雇用された方について、無期転換申込権を発生させないという特例制度があり、その制度を使えば無期労働契約になることを避けることができます。その特例制度ですが、予め適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることが必要になります。
太田社長:なるほど。でも当社は既に彼を定年再雇用しているのですが、今からその特例制度を使うことは可能なのでしょうか。
賛多弁護士:はい、大丈夫です。既に無期転換申込権により申込されていない限り、定年を迎えて再雇用されている従業員及び今後定年再雇用される従業員については特例制度が適用されます。但し、あくまで既に無期転換申込をされていないことが必要となりますので、その方が65歳を迎える前に、特例制度を設ける必要があります。
太田社長:分かりました。その特例制度について、先生に相談できますでしょうか。
賛多弁護士:もちろん大丈夫です。申請にあたっては、会社内で高年齢者の雇用を管理する方の選任などを行うことが必要となりますが、今後改めて必要手続等をご説明しますね。
太田社長:宜しくお願いします。
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有期雇用契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図るため、平成24年8月の労働契約法改正により、同一の使用者との間で、有期雇用契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合に、労働者の申込で無期労働契約に転換されることになりました(「無期転換ルール」といいます)。このルールは、いわゆる定年再雇用の有期契約労働者にも当てはまりますが、特別措置法により、適切な雇用管理に関する計画を作成し都道府県労働局長の認定を受けた場合には、特例として、定年後引き続き雇用される期間は、無期転換申込権が発生しないという制度が定められました。制度利用にあたっては、高年齢者雇用推進者の選任等、手続が必要となりますので、専門家と協議しながら進めましょう。