2021年は、地方銀行の経営統合・再編が加速する年となりそうだ。
菅義偉首相は就任早々から「地方銀行は数が多すぎるのではないか」と発言すると共に、地銀の再編、統合を後押しする政策を矢継ぎ早に打ち出している。
地方再生には地方銀行の経営基盤強化が必要であり、そのためには再編、統合も必要であると考えているからだ。
目玉となるのは次の3つの取り組みだ。
1つ目は、経営統合や合併する地銀に補助金を交付する新制度。
預金保険機構の利益剰余金350億円を原資として、1件当たり20億~30億円程度を支給する。
システム統合費用など再編に必要な初期コストの一部を補助し、再編を後押しする。
2つ目は独占禁止法の特例法。
同一地域の地方銀行同士の合併に独占禁止法を適用しない特例法。寡占状態となるような合併も容認するもので、昨年11月27日に施行された。
長崎県下の親和銀行と十八銀行との合併について、公正取引委員会が難色を示した事を切っ掛けに、当時官房長官であった菅氏が特例法の制定を主導したものである。
3つ目は日銀による「地域金融強化のための特別当座預金制度」の導入。
経営統合等で経営基盤を強化した地方銀行・信用金庫に対して、日銀当座預金に+0.1%の特別付利を行うという制度。
金融システムの安定化を目的とする制度と言っているが、これも再編、統合を促進する施策である。
金融庁は、「地銀経営統合・再編等サポートデスク」を設置して背中を押す体制だ。
地銀再編は必然
そもそも地域金融機関のビジネスモデルは、地盤となる地域に店舗を構えて、個人預金を集めて地場企業へ融資し、その利鞘で稼ぐというものであった。
ところが、地方経済の低迷や低金利政策によって融資需要は減少、利鞘も無くなり店舗や人員コスト、それにデジタル化に対応するシステムコストを賄えなくなってしまった。
そこで、合併や持ち株会社によるグループ化によって大きくなる、所謂、スケールメリットを追求してコスト構造を強化する、或いは、SBIホールディングスなど異業種企業と組んでサービスの幅を広げたりIT化を進めたりして収益力を高めなければならない状況に、殆どの地銀が追い込まれている。
そこに更にコロナ禍が追い打ちをかけ、いよいよ待ったなし。再編は必然とも言える動きなのである。
では、このような動きの中で経営者として備えるべき事は何なのかを考えてみたい。
大事なことは、次の3点。
①経営計画書をまとめておく
銀行の再編、統合に自社の経営計画書は関係ないと思われるかもしれない。
しかし、そもそも何のための再編、統合かと言えばコストカットが大きな目的だ。自社の取引する銀行が吸収されるかもしれず、取引する支店が無くなるかもしれない。仮にそのまま残ったとしても、行員の人数は減り、昨日まで懇意にしていた支店長や担当者も明日には居なくなる事も想定しておかなければならない。
このような事態に有効なのが、経営計画書である。自社の理念や沿革、業績推移から今後の計画をまとめておけば、取引銀行の相手が替わっても一早く自社の事を理解させ、信頼関係を築く大きな助けとなるはずだ。
再編、統合に巻き込まれる銀行だけでなく、単独で生き残りを図る銀行もコストカット、支店の統廃合や組織の再編、人員削減は避けて通れない状況である。取引銀行の変化は必ず起こると想定して、経営計画書をまとめておきたい。
②独自の付加価値や地域社会への貢献性など差別化ポイントを整理する
地方銀行は、人員削減などで従来の地域密着型のビジネスモデルを同じように続けることは難しくなっている。一方で、地域経済の活性化を担うためには、どうしても経営資源を目的に沿うような企業に集中せざるを得ない。
今、この時代に銀行が積極的に支援したいと考える企業としては、独自の技術力やノウハウなどの付加価値を持っている、或いは、地域社会に貢献している、地域経済に欠かせないなどの特徴を持つ事が大事だ。
初対面の相手にでも分かり易いように、自社の差別化ポイントを整理しておく事は有効である。
③取引チャネルを拡大する
再編、統合で取引銀行の数が減る事もあるだろう。或いは、従来は企業融資も担っていた取引支店が個人取引に特化して企業融資を止めるようなケース、振込などの手数料を一気に値上げしてくるようなケースもあり得る。
融資取引に限らず、決済取引や資金運用も特定の銀行だけに集中させていると何かあった時に対応の選択肢が限られてしまう。そのような事態を避ける為にも、取引チャネルはある程度広げておく事も必要だ。
地域にある他の金融機関だけでなく商工中金などの政府系金融機関なども対象となるだろう。また、ネットを活用したチャネル拡大も有用だ。フィンテックによる新たなサービスも出てきているので、研究しておく事も役に立つ。
ここ最近、地銀再編、統合についてのニュースや記事が非常に多い。
多くは再編の組み合わせ、動向についての解説であるが、合併や提携などは一つの現象に過ぎず、本質的には全ての金融機関がビジネスモデルの変革が求められているのである。
自社の取引銀行にも必ず変化が起こる事を想定して、備えを進めていただきたい。