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- 第90回「不確実性の高い2017年 3つの視点を忘れずに」
今、目の前に起きていることだけを見ていると、今後の見通しについて判断を見誤ることがある。
2016年は世界の政治経済に大きなサプライズがあり、従来の中長期トレンドから外れた現象が次々に起こった。英国のEU離脱は大方の予想を裏切る形で決定し、米国の大統領選挙ではトランプ大統領の誕生で不確実性が増し、これらに金融市場も大きく反応した。来年の欧州は、オランダ、フランス、ドイツなどで重要な選挙が続くので、過去半年に起きた出来事のように、今後も事前に予想できない変化が起きる可能性がある。
こうした状況下に置かれると、物事を見るときの判断の基準としての『3つの視点』を持つことがいかに重要かを痛感する。すなわち、世界の社会経済全体を広く見る「マクロの視点」、世の中の潮目の変化を敏感に読む「トレンドの視点」、そして私たちの家計や経営など個々の状況に注目する「ミクロの視点」の3つである。これらは相互に関係しており、どれか欠けても物事を冷静に判断することは難しい。
資源価格に注目してみると、2014年頃からの中国の実体経済の悪化により、現在、原油や鉱石などの資源価格の低迷は続いている。鉱物資源、穀物資源の価格低迷により消費者物価も低迷し、デフレへの反転も懸念された。欧州各国の金融政策は、その軸足を景気後退の防止へと重点を移行している。中国の投資と輸出主導の経済が、国内消費主導の経済へとソフトランディングできるか予断を許さないが、その移行にはまだ相当の期間を要することだろう。トランプ現象の明るい面ばかりを見て期待ばかりが膨らんだ現在の金融市場に「根拠なき熱狂」という危うさを感じる人も少なくないはずだ。
このように私たちの目の前で起きている現象だけで判断すると、世界人口の増加による資源不足と将来のインフレ懸念、日本の人口減少や潜在経済成長率の低下、財政悪化を原因とした増税や社会保障費用の負担増加など、従来懸念していたことが消滅したかのような錯覚に落ちる。しかし、現実に世界人口は増え続けて、将来は食料や鉱物資源が不足する可能性があり、日本の人口は確実に減少して国力に陰りが生じ、いつか起きる景気後退は国と地方の財政にさらに厳しいダメージを与えることなど、日本人を取巻く環境を楽観視することはできない。
ポピュリズムの拡散や世界経済の低成長化、第4次産業革命の進展など、一世紀に一度位の大変動に向き合っている今こそ、物事を判断するための確かなものさしをしっかりと携えて、目の前で起こっていることは「短期的な現象」なのか、「中長期に持続性のある現象」なのかを見極めなければならないのではないか。
以上